ケイケイの映画日記
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2025年10月03日(金) 「宝島」




間違いなく力作です。作った意義の深さも理解出来ます。なのに、なんだろう?190分飽く事なく観続けたのに、泡盛を飲むつもりだったのに、出てきたのは薄い水割りだったような感覚は。観て数日経ち、自分なりにその理由が解ってきました。監督は大友啓史。

1952年の沖縄。アメリカに統治されていた時代、米軍の基地に忍び込み、食料や生活物資を盗み、貧しい人々に配った「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいました。しかし、ある時アメリカ軍に見つかり、散り散りに逃亡したのち、英雄と謳われたリーダーのオン(永山瑛太)が、忽然と姿を消してしまいます。それから数年経ち、メンバーだったグスク(妻夫木聡)は刑事に、オンの弟レイ(窪田正孝)はやくざに、オンの恋人のヤマコ(広瀬すず)は教師となり、三人が三様にオンの帰りを待っていました。

戦果アギヤーは、義賊のような感じでしょう。彼らのような若者がいたのは、知りませんでした。決して私腹を肥やすためではありません。本土からは置き去りにされ、統治されたアメリカにはやりたい放題され、行き場のない怒りが、若者たちを駆り立てたのは、充分理解出来ます。

「バレリーナ」を観た時、アナ・デ・アルマスが火炎放射器を武器に、バッタバッタ敵をなぎ倒すシーンが、私は痛く気に入りました。火炎放射器は、畑を焼く時に使うんだと思っていたから。夫に「火炎放射器て、武器になるんやな」と、ウハウハ言うと、「何言うてんねん。戦時中の沖縄で、防空壕の中の沖縄の人に、アメリカ軍が火炎放射器で、中の人を引きずり出したんや」と言われ、一瞬で意気消沈。このシーンを喜んで観た事に、罪悪感が残りました。

知っているようで知らない沖縄の歴史。劇中で私が知っていたのは、今も続く米軍の暴挙、コザの暴動。Aサイン。知らなかったのは、戦果アギヤー、米軍機の墜落、沖縄の人同士の争いです。覆面を被った沖縄人が、通り魔のように米軍兵に暴行していたのも、知りませんでした。

沖縄が日本に返還されたのは1972年。私は小学生で、その当時の日本中の沸き立ちは、記憶にあります。外国だった沖縄が、日本に戻ってくるんですから。気になったのは、本土を避け、沖縄が戦地になった事も知っている私と、それを全く知らない人が観て、沖縄の人の怒りや屈辱が、津々と伝わってくるのか?です。セリフで米兵のレイプ、暴行、ひき逃げがお咎めなしとは、幾度も出てきますが、それに抵抗する場面はあっても、直接はありません。

血で血を洗う凄惨な暴行シーンは、同じ沖縄人同士や、グスクが二重スパイを疑われて、本土の人間に拷問されるシーン(それもあれだけ拷問されるのに、一晩経って傷跡も無し)です。米軍から直接暴行を受けるシーンは、無かったと思います。この作品は、終始負の熱気が充満していました。想像力や行間を読ますのではなく。怒りを共にするため、目に焼き付ける描写が必要だった気がします。

ヤマコが沖縄の解放運動に傾倒していくのは、米軍機の墜落が、教師の彼女の勤務する小学校だったことに起因していると思う。生徒たちを救えなかった自分への、呵責の念がそうさせたのでしょう。直後の慟哭だけではなく、どこかにその怨念めいた気持ちを表して欲しかった。そう、怨念ですよ、怨念。当時の沖縄の人は、本土にもアメリカにも、怨念があったんじゃないかなぁ。ここが「薄い水割り」なんだと思います。もっと泥臭くていいのに、変に洗練されているんだよ。

ウタ(栄莉弥)の扱いも、良く解らない。彼は重要なキーパーソンのはず。自分の命の恩人が、どんな人だったのか、知っていたのか知らなかったのか、そこも良く解らない。ウタとウタを救った人との回想を、「砂の器」の幼い和賀英良と父親の巡礼シーンくらい、長く深く描けば、もっと観る者の感情を揺さぶったと思います。190分もあるのに、はて?と、尺の使い方が上手く機能していないと感じました。米軍の指令官のマーシャルの「お気持ち」なんか、要らなかったと思うな。「トモダチ」だとか、そうじゃないとか、グスクは犬に使われた、それだけで良かったと思います。

少しずつ不満が蓄積されていたので、コザの暴動のシーンは、すごいカタルシスでした。ここが一番良かった。内地の男(木幡竜)が、「どうせ奴らは、デモくらいしか出来ない」と不敵な笑みを浮かべた直後だったので、余計です。あれはAI無しで、人海戦術でエキストラを大量に使っていました。感情を伝えるには、まだまだ人間の方が遥かに上です。

演技陣は皆熱演で、とても良かったです。ただ、広瀬すずも良かったと思いますが、どうしてこの役、二階堂ふみではないのだろう?と、ずっと思っていました。私はリアリティ至上主義ではありません。でもこの熱の籠った、沖縄の歴史を世の中に知らしめたいはずの作品の主要人物に、沖縄出身者が一人もいないのは、如何なものか?と思います。

「国宝」と並べて、ああだこうだと言われていますが、同列に語る意味が解らない。色々文句垂れていますが、当時の沖縄を再現した美術も素晴らしく、知らなかった沖縄の歴史、人々の想いを共有出来て、観て良かったと思っています。


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