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■ その一瞬に、人生を考えた。
どきどきした。 こんなの、初めてかもしれない。 その一瞬。
ひさしぶりに会う友人と秋葉原をひたすら歩き回り、 怪しげな秋葉原人類に紛れてジャンク屋散策。 カゴの中をあさる午後だった。
偶然に入ったあるカフェで、それはおこった。
18歳の大学入学当初、あるサークルに入ったことがある。 詳しく話せばたっぷり一週間はかかるけれど、とにかくその経験は すさまじかった。 いってみれば、秋葉原人類のサークル。 なんというか、当時は「若かった」のかもしれない。 自分と、まったく釣り合いの取れない世界とのギャップに、 バランスを崩していた。ノイローゼみたいなもんだ。
あれ以来、あのサークルをあんなふうにやめて以来、もう 誰とも連絡すらとらず、まったくつきあいはない。
わたしの人生はあの後大きく変わり、アフリカ研究の道へ。 恩師に出会い、ベッシーと出会い、ボツワナへ行った。 180度違った世界。 わたしは、大学を出てあるIT業界のベンチャー企業で働き、 それから英国の大学院に進学した。 ぐるぐる、ぐるぐる。
あのころの自分が、自分のうちからあふれ出るものを コントロールできなかった弱さが、思い出される。
そのカフェには、あのサークルで一緒だった女の子がいた。 まだ、あの世界にいた。
最初、驚いて顔を背けた。 あのときのノイローゼみたいなものが、いま、恐怖症と 似た種類のものになっている。 もちろん、いまとなってはそんな自分の感情に負ける自分ではないが、 あまりにも違った世界まで来てしまったわたしは、まだ何年も前の あの世界に住んでいる彼女をみて、思わず逃げそうになった。
もう、何を説明する必要もないし、何を説明しようとも 理解できない部分がほとんどなのだ。
だったら…。 でも…。
一緒にいた友人が会計を済ませ、レジの向こう彼女がそれを担当した。
わたしは、しんとした気持ちになった。 わたしに気づかない彼女が、レジに打ち込み、あけ、札を受け取り 小銭を渡す。 顔を上げた。
二秒、時が止まった。 6年分くらいの時が流れた。
わたしは微笑むと、さきに店を出るエスカレーターへと向かった 友人の後へ続く。
え、もしかして?
声にならない表情。
くだりのエスカレーター。 乗りながら、わたしはふっとうつむき、 それから彼女に向かって微笑むと、もうすぐ見えなくなる彼女に 手を振った。
彼女は、あっと声を上げ、満面の笑みで手を振り返した。
それで、終わり。 話すことなんて何もない。 ただ、あのあともがんばって生きてきたよ。 それだけのこと。
わたしは今年、26歳になる。
2002年03月19日(火)
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