あふりかくじらノート
あふりかくじら



 赤坂に、雨は降るから。

大叔父が亡くなってひと月たつ。
あの、死の感触を忘れない。

豊川稲荷には柔らかい雨が染み渡るように降り注いでいて、
温かいうどんの、びっくりするくらいのしんとした哀しい味が
しみわたって、わたしはその音を聴いた。
初めてのお店は、ときに涙が出るほど懐かしい。

この街は、大叔父夫婦が何十年も暮らしたところ。
豊川稲荷の裏手から、時を隔てた呼び声がする。

くじらはこの街に回帰する。
アラスカと小笠原を行き来するその尾ひれのように、
わたしは雨降る日本のこの街から、アフリカをみてる。

会社で働くとは、どういうことだろう。
ひとつ、考えなくてはならない宿題を
わたしはかかえているのかもしれない。
もう、逃げられない。

死はそこにあって、わたしは生きて誰かに愛されることを
貪欲に求め続ける。
だから、書き続ける。

そろそろ、お昼休みもおしまい。
赤坂に、雨は降るから。


2002年06月12日(水)
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