あふりかくじらノート
あふりかくじら



 ピアノの詩人と彼女の狂気。

イングリッド・フジコ・ヘミング。
その指先の、ショパン。

革命のエチュードは、ドイツのシュットゥットガルトで生まれた。
ショパンの影にはいつもリストが存在し、フジコはリストを
弾くために生まれてきたピアニスト。

ベルリンは寒く、彼女は聴力を失う。

曇り空の日曜日、わたしはすべての予定をキャンセルし、
「革命のエチュード」と「木枯らし」に脳を侵される。
ショパンの詩は、なぜにこれまでまっすぐなのだろう。
どうしてわたしは、こんなにもあっさりと
心臓を刺されてしまうのだろう。

なんて軽い音と、重たい響き。
ハンガリアン狂詩曲のようなフジコの人生。
リストにささげたショパンの情熱。

狂ったように、ショパンを弾いた。
鍵盤をたたいて、その心臓の傷口から、
わたしは開放される。

いつか、ラフマニノフを弾く日には
わたしは気が狂ってしまうのかもしれないと、
じつに冷静に考えてみた。

どうか、いまのわたしに向かって奏でないでください。
リストを、奏でないでください。

2002年06月16日(日)
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