無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2005年09月30日(金) いつものビョーキが出たみたいですが/舞台『blast!(ブラスト) supported by ヒュンダイ』

 しげ、朝から体調崩す。
 いきなり朝の四時か五時に起こされて、「今日、サンパレスに行かんけん」とか言い出すので、何事が起こったかと、朦朧とした意識の中で事情を聞き質すのだが、何を言っているのか全然分からない。
 本当は、今夜しげは、福岡サンパレスで、マーチングバンド・ショー(と言うよりはドラム&ビューグルによる演奏パフォーマンス)の『blast!(ブラスト! supported by ヒュンダイ)』をよしひと嬢と見る予定だったのである。
 つい昨日までは、「明日は(夕方から舞台を見に行くから)仕事帰りに迎えに来れんけん」と楽しそうにしていたのに、いきなり「チケット譲るからあんたが行って」と言われても、私の方は当惑するばかりである。
 「どうしたん? いったい」
 「具合悪いと」
 「『今は』やろ? 夕方まで休んで、調子がよくなったらそれから出かければいいやん」
 「行っても持たんよ」
 「だからどう具合が悪いん?」
 「分からん」
 まるで埒が明かない。
 仕方がないので、チケットを譲られるが、なんだかメンタル面からちょっと怪しげな感じで、ほったらかして自分だけ舞台を見に行くのは心苦しかった。
 でももちろんチケットを無駄にするのはもったいないので、しげをほったらかして出かけることにする(外道)。
 でもね、何しろね、私ももともと行きたいことは行きたかったんだけれどもね、今月は見たい芝居が重なっててさ、ン万円もするチケットを何枚も買えるほどの余裕はなかったのよ。だからS席もあきらめて三階A席ン千円で妥協したし。

 仕事では、いきなり夕方に会議を入れられて、勤務時間内に終わるのかどうかハラハラしたが、なんとか3分押しで終了した。ちょっと走って電車に駆け込む。
 よしひと嬢からは何度かしげの容態を心配するメールが入っていたが、それまで返事する余裕もなかった。何とか電車内で待ち合わせの時間と場所を確認して、博多駅で落ち合う。女同士で楽しく盛り上がれるはずのところを、中年のみすぼらしいオヤジが乱入したようなもので。全く申し訳ない限りである。

 サンパレスの近くの定食屋で、ざるそばカツ丼(なかなか豪快なコンビネーションである)を食べる。カツの肉が安くて硬いのを卵で誤魔化そうとしている感じ。不味いとまでは言わないが、器をざるそばとカツ丼、合体させた横長長方形の弁当箱に入れて出すのはどうか。持ちにくく食べにくいことこの上ないのである。
 
 開場時間のすぐあとくらいにサンパレスに着いたが、福岡で一番大きな劇場なだけに、長蛇の列がハンパではない。ダフ屋も何人いるか分からないくらいで、「チケット買うよ」の声があちこちで連呼されている。
 指定席だから慌てる必要はないのだが、行列の最後尾にまで回ると、開演時間までまだ20分もあるというのに、間に合うかどうか不安になる。何とか10分ほどで入場できたが、パンフレットを買ってトイレに行ったら、席に着けたのが開演直前だった。
 客席は三階までの約2300席が完全に満席、立ち見も出ているようである。よしひと嬢が「凄いですね、人気あるんですね。私が知ってるくらいですから」と仰るが、これは謙遜で、舞台だけでなく、音楽、映画方面など、結構いろんな分野に幅広く目を光らせている。
 「博多駅が改装されて、シネコンが入るらしいよ」と私が言った途端に「でもシネ・リーブルは大丈夫ですよ(=潰れたりしませんよ)」なんて返してくるし、だいたい「マンガ同人誌を買い込んだ紙袋を持ってコンサートホールに乗り込んでる客」なんて、この劇場中に彼女以外にいないことはまず確実である(笑)。

 舞台は素晴らしいの一語に尽きた。
 日体大の行進パフォーマンスに似てるなあ(笑)、とか感じたのは実はそう的外れでもなくて、パンフレットの解説によれば、『ブラスト!』のルーツは軍隊の訓練行事で、それが「ドラム&ビューグル・コー」と呼ばれる集団パフォーマンスに発展したものだとか。
 ビューグルという金管楽器(トランペットに似ている軍隊ラッパ)とドラムを中心としたチームが、マスゲームのように演奏をしながらパフォーマンスを繰り広げる。言葉でその魅力を伝えるのはなかなか難しいが、三階席から見ると、ラヴェルの『ボレロ』を演奏しながら、上手のビューグルの一団と、下手のドラムの一団が、「踊りながら交錯しても全くぶつからない」その美しさが、奇跡的にすら見える。
 特に私が感嘆したのは「日米ドラムチャンバラ」とでも言うべきパフォーマンスで、目にも止まらぬ早業でドラムを連打する二人のパフォーマーが、スティックでチャンバラを繰り広げる間、少しも音を途切れさせることなく、縦横無尽に舞台を駆け回るのだ。映画『ドラムライン』の「バッテリー・バトル」を想起せられたい。これを日本の石川直(いしかわ・なおき)と、デヴィッド・コックスの名手二人が競い合うのである。面白くならないはずはない。
 全く、こんな「体育会系のコンサート」は初めてだ。なんたって、演奏中「シンバルを二度鳴らすだけ」のパフォーマーですらずっと「踊っている」。オペラグラスで確認すると、もう女性の腕も『筋肉番付』の出演者かと思えるほどに筋肉付いているし、足腰のバランスも、右足から左足、倒れて回転して起き上がってというムチャクチャな重心移動でも崩れることが全くない。しかもそれが全て「楽器を演奏しながら」なのだ! もう客席は一極終わるたびに驚嘆と感激の大拍手である。
 詳述していくとキリがなくなるので、あとは演目だけを紹介しておきたいと思う。

 ボレロ
 カラー・ホイール
 スプリット・コンプリメンタリーズ
 エヴリバディ・ラブズ・ザ・ブルース
 ロズ
 シンプル・ギフト/アパラチアの春
 バッテリー・バトル
 メディア
 カラー・ホイール・トゥー
 クラプキ巡査
 レモンテック
 タンジェリンアマデッジ
 ランド・オブ・メイク・ビリーヴ
 スピリチュアル・オブ・ディ・アース
 マリンバ・スピリチュアル/アース・ビート
 マラゲーニャ

 有名曲ばかりを並べる媚びたラインナップではないことにご注目いただきたい。ありきたりのコンサートだと、必ずディズニーとかが混じるもんね。
 しかしラヴェルの『ボレロ』は、映画『ネオ・ファンタジア』と言い、『愛と哀しみのボレロ』と言い、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』と言い、「映像」と実に合うことである。

 感動と興奮の二時間が、あっという間に過ぎる。
 冗談ではなく、本当に時間が過ぎるのが短く感じられたのだ。相対性理論は正しいと実感(笑)。これだけいろいろ書いても、全然『ブラスト!』の面真の白さは伝え切れてはいないので、興味を持たれた方はぜひ、DVDででもその魅力を味わっていただきたいものだと思う。それにまた来年も来日するそうですよ。

 コンサート、ライブ系ももっともっと見に行きたいんだけれど、金は無尽蔵には続かないのである。よしひと嬢も「どうしてもライブが中心になっちゃいますね」と言われていたが、私の場合、ライブを中心にするとそれこそ際限がなくなるくらい好きな歌手が多いので、歯止めが利かなくなるのは目に見えているのである。
 ああ、でも『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の福岡ライブは見に行っときゃよかったと今でも後悔している。コンパイ・セグンドも今は亡い。

 帰宅すると、しげ、見た目はそんなに体調が悪くなさそう。
 ほか弁を土産に買って帰ったので、機嫌はすこぶるよろしい。これならちょっとだけ無理をすれば舞台を見にも行けたんじゃないかと思ったが、まさか私に舞台を見せたいがためにわざと仮病を使ったんじゃなかろうな。


 「金曜ロードショー」で『スネーク・アイズ』を見る。
 昔、見たけど、久しぶりに見ると結構ディテールを忘れていた。この映画あたりから、ゲイリー・シニーズの本格的なファンになり始めた。シャープな悪役が一番冴えているが、吹き替えで見るとちょっと「甘く」なっている気がする。寺杣昌紀さんの声、嫌いじゃないんだけれどねえ。


 テレビのニュース画面に、「阪神優勝で大暴動」の文字が躍っている。
 また大阪のど阿呆どもが、と、大阪とゴッサムシティには住みたくないものだとつくづく思うが、二年前に比べればあれでも随分おとなしくなったらしい。
戎橋の飛び込みも、5300人から62人に減ったとか。もっとも、これは橋の周囲に3メートルの高さのフェンスができたおかげも大きいようだ。それでもそのフェンスによじ登り、あえて飛び込もうってやつもいるのだから(まあ野球場でもフェンスに飛びつくやつはいるしなあ)、こりゃもう、仮に落ちて死んだとしても同情は全くできないのである。
 どこでも馬鹿はいるものだで終わればそれまでだが、何がそんなに嬉しいのか、ここまでヒートアップするのは大阪くらいのものだろう。馬鹿やるにしても限度があるというもので、暴動まで起こしてちゃそりゃただの犯罪者の群れだ。二年前から言っていることだが、人道的立場から言えば、人死にも出るし(飛び込んだやつだけとは限らない)、阪神の優勝は何としても阻止しなければいけないのである。止めたって止まらねえやつらが(つまりはヤクザと同じ)のさばるんだもの、日本シリーズで勝たせたりしちゃいけないよ。
 あるいは逆に、「馬鹿なんていくら死んでも構わない。世の中から馬鹿を駆逐しよう」という発想に立つなら、もっとフェンスを高く、10メートルくらいにして、飛び込んだやつは確実に死ぬくらいにしたらいいんじゃないかと思うが、大阪警察もそこまでは踏み切れないようで、まだまだ甘いのである。
 でも、たかが野球で暴動が起こる。トバクが横行し、選手の不祥事は相次ぐ。たかがサッカーなのに、国際紛争すら起こりかねない。いい加減で「スポーツは健全な精神を育成する」という錯覚を持つのは止めにしないかと本気で思う。話は全く逆で、健全なやつがスポーツをすれば健全になるし、不健全なやつがスポーツをすれば不健全なやつになるってことなのだ。
 オタク話にスライドさせれば、作品は面白いけど、その周囲で何やかやと毀誉褒貶喧しいファン連中は鬱陶しい、というのと同じ理屈ね。あそこで飛び込む連中はメンタル面ではキモオタ連中と全く変わっちゃいないんだから、もっと罵倒してやらないと自分たちがどれだけ公序良俗に反する気色悪い行為を世間に巻き散らかしているか、自覚できないのだ。「まあお祭りだから」みたいな軽い気持ちで許してやったりしてたらどこまで増長するか、分からないよ。あれで「人に迷惑はかけていない」つもりでいるんだから。


 「イッセー尾形のホームページ」に、ようやく北九州小倉ワークショップのレポートが掲載され始める。
 今日の段階ではまだ初日と二日目だけだけれども、私が参加できなかった昼の部の内容も垣間見えて面白い。
 「他人の歩き方を真似させる練習」なんてのは夜の部ではやっていない。「面白いことに、今回は『見本』となった参加者の歩き方の細かい特長を真似ようとしながらも、一番目立つ『首の角度』に注目する人は殆どいなかった」とあるが、この「見本」の二、三人の中にはしげもいたと思われる。重心が不安定で、「開いた足で常にブレーキをかけながら歩く」というかなりしんどい歩き方をしているのだが(おかげで何もないところでやたらコケる)、本人はいくら注意してもいっこうに改めようとしない。見た目が殆どペンギンかチャップリンなので、もしかしたらあれで「可愛く見られたい」とでも思っているのかもしれない。
 「首の角度に注目する人がいない」というのはなるほど面白い。本番の舞台でも「ハトって首動かさんと歩けんのやろか」というギャグを飛ばしていた方がいたが、人間も実は首でバランスを取って歩いている。そこに注目が集まりにくいということは、そこが人間にとって無意識的に「触れてほしくない」ウィークポイントであるからだろう。
 人は、演技をするとなると、意識していなくても「カッコよく見せよう」と振る舞ってしまいたがるものだが、脊髄から首にかけての「動き」は見た目のカッコよさよりも「身を守る」ことの方がどうしても優先されてしまう。バランスが不安定な人は妙に首を傾げたりしているし、足元が不安なら猫背になってうつむく。颯爽と歩いているように見える人も実はそれが本人にとっては一番重心を安定させる位置であったりするのだ。人によってそのクセはかなり顕著である。
 人はたいてい、子供のころに親や先生から「もっと背筋を伸ばして前を向いてまっすぐ歩きなさい」などと言われて歩き方を矯正させられようとした経験を持っている。ところがこれがなかなかうまくいかない。敵から身を守るためには堂々としていた方がいいと分かっちゃいるんだけれども、つい「及び腰」になってしまうようなもので、自分の身体のクセの方が優先されてしまうのである。
 だから、たとえ「他人の真似」であろうとも、心優しき人々は相手のウィークポイントを真似することを無意識的に回避してしまうのだろう。極端な例えではあるが、「身障者の真似をしなさい」と言われてためらうようなものだ。世の中には他人の形態模写が異様にうまい人とどうしてもうまく真似できない人とがいるが、これは技術的な問題ではなく、そういった心理的な問題があるからではないだろうか。他人の癖を真似ることに抵抗感を感じないのは、その意味では他人の心にズケズケと入り込むことのできるヒドい人間なのである(笑)。
 私も人からたまに「演技がお上手ですね」とか「立て板に水のように喋れますね」とか言われて誉められることがあるのだが、そういうときの私はかなり人の心を慮らない悪辣かつ残酷な人間になっているのである(気持ちがですよ、気持ちが)。そういう私を見慣れている人は「私は実は人見知りで無口で人付き合いも下手なんですよ」と言うと、絶対嘘をついていると決め付けてくるのだ。いくら説明しても信じてはもらえないというのはいささか困りはするのだが、まあ「どっちが本当の自分」という区別はないというか、全ての人間の言動は演技であるので、結局はどう受け取っていただいても構わないってことになろうか。一応、悪辣になっても他人を陥れるようなマネはしないし、善人のように見えて宗教に勧誘したりもしないのでご安心を。多分、私は、他人が思っているよりはフツーの人である。
 例えば、私のもう一つのブログ日記では、私のキャラはすっかり「ポエマー」(本当の英語は「poet」だよ。念のため。)になっているのだが、こちらの無責任日記に慣れている人が読めば「このウソツキ野郎」と思われるかもしれない。どっちがホントでもどっちがウソでもないので、まああまり頭を悩まさずに見ていただきたいのである。 
 ワークショップの話に戻すが、四日目には私たちの引っ込み思案な芝居振りに森田監督は泣いた、という話だったが、レポートを読む限りでは、初日二日目はまだそんなに心配はしていらっしゃらなかったようだ。思い返すだに、自分のカンの悪さと努力不足が身に染みることである。

2004年09月30日(木) 男が男に恋をする。まあ、自由だけどよ/DVD『鋼の錬金術師』9巻
2003年09月30日(火) 映画の栄華/『ロン先生の虫眼鏡』1巻(光瀬龍・加藤唯史)
2002年09月30日(月) 今時の格闘オタク/アニメ『天地無用! GXP』第1話/『Heaven?』4巻(佐々木倫子)ほか
2001年09月30日(日) 新人さんの名前は?/『不幸な子供』(エドワード・ゴーリー)ほか
2000年09月30日(土) 邪馬台国と背後霊と泥繋がりと/映画『モンティパイソン 人生狂騒曲』ほか



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