※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。
旅に出て11ヵ月が経とうというころ。 わたしは見覚えのある帽子をかぶったおじさんに出会った。
「あ!」
その帽子を見た瞬間、わたしは叫んでしまった。 パーティーのような帽子に、木製のプロペラ。 近くには雲を突き抜ける高さのはしご。 あぁ!あの青年以外にもいたんだわ。 わたしは思わず駆け寄っていた。
「こんにちは。」 「あぁ、こんにちは。」 「その帽子。」 「あぁ、こいつは俺の目印さ。」 「やっぱり。星を飾りに行くのね。」
おじさんは太い眉毛を吊り上げ、わたしを見下ろした。 そして大きな口で恐ろしいほどにやりと笑った。
「はずれ。俺の仕事はこいつさ。」
そう言って取り出したのは、ちくわくらいの太さの大きな筆。 それからパスタ皿のような大きなパレットだった。 おじさんはそれらを脇に抱えはしごに手をかける。
「え、もう行くの?夜はまだよ。」 「俺の仕事はこれからさ。 見てな、おじょうさんへ俺からのプレゼントだ。」
そう言うとおじさんは、決して軽やかとは言えない足取りで はしごをゆっくりと上っていった。 おじさんが上るたびに、はしごがぎしぎし言うので わたしははらはらして、おじさんの大きくて丸い背中を見送った。
年だから空まで行くのに時間がかかるのかしら? と失礼なことを思いながらわたしは空を見ていた。 まだ日は高い。今日は雲ひとつ出ていない晴天だ。 その時だった。白い点がぽつりと空に浮かんだ。
「あ、分かった!」
滑らかに、誰かに描かれていくようにどんどん雲が形を作っていく。 間違いない。あの背も高くてどっしりした、笑顔の怖いおじさんだ。 そうか。雲職人なのか。 わたしはどんどん出来上がっていく雲を熱心に眺めた。
雲はもくもくとその形を整えていって なんと最終的にはきれいなハートになってしまった。 わたしはおじさんの言葉を思い出して
「それは困るなぁ。」
と苦笑した。
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