2004年08月29日(日) おじさんは雲職人
 

※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。

旅に出て11ヵ月が経とうというころ。
わたしは見覚えのある帽子をかぶったおじさんに出会った。

「あ!」

その帽子を見た瞬間、わたしは叫んでしまった。
パーティーのような帽子に、木製のプロペラ。
近くには雲を突き抜ける高さのはしご。
あぁ!あの青年以外にもいたんだわ。
わたしは思わず駆け寄っていた。

「こんにちは。」
「あぁ、こんにちは。」
「その帽子。」
「あぁ、こいつは俺の目印さ。」
「やっぱり。星を飾りに行くのね。」

おじさんは太い眉毛を吊り上げ、わたしを見下ろした。
そして大きな口で恐ろしいほどにやりと笑った。

「はずれ。俺の仕事はこいつさ。」

そう言って取り出したのは、ちくわくらいの太さの大きな筆。
それからパスタ皿のような大きなパレットだった。
おじさんはそれらを脇に抱えはしごに手をかける。

「え、もう行くの?夜はまだよ。」
「俺の仕事はこれからさ。
見てな、おじょうさんへ俺からのプレゼントだ。」

そう言うとおじさんは、決して軽やかとは言えない足取りで
はしごをゆっくりと上っていった。
おじさんが上るたびに、はしごがぎしぎし言うので
わたしははらはらして、おじさんの大きくて丸い背中を見送った。

年だから空まで行くのに時間がかかるのかしら?
と失礼なことを思いながらわたしは空を見ていた。
まだ日は高い。今日は雲ひとつ出ていない晴天だ。
その時だった。白い点がぽつりと空に浮かんだ。

「あ、分かった!」

滑らかに、誰かに描かれていくようにどんどん雲が形を作っていく。
間違いない。あの背も高くてどっしりした、笑顔の怖いおじさんだ。
そうか。雲職人なのか。
わたしはどんどん出来上がっていく雲を熱心に眺めた。

雲はもくもくとその形を整えていって
なんと最終的にはきれいなハートになってしまった。
わたしはおじさんの言葉を思い出して

「それは困るなぁ。」

と苦笑した。





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