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SS「薫楓」 -3・・・・・tako - 2003年05月07日(水)
最愛の妻と3人の姫を守り通した城主を思うのか、 ともに自害しようとして叶わなかった奥方の気持ちに想いを馳せているのか、 どちらにしても、時を経てこの同じ光景を見ていたかもしれない二人に シンクロしているであろうことは想像がつく。
「もう少し行くと頂上だ。どうする?」 「ん…、行くか。」
指に触れていた楓の新芽をもう一度愛しそうに撫で、振り向いた顔は 痛みと安堵が混ざったような、複雑な表情だった。
形はちがっても、俺たちがこうなる前には、いくつもの障害があったのは 確かなことで、今でもそうだが、コイツにはずっと辛い思いをさせてきた。 せめて不安を取り去ってやりたいと思うが、口下手な俺に上手い台詞は 浮かばない。
俺にできることは、同じ時を同じ視点で過ごす中で、共感、共鳴できる部分を 増やしていくことだけかもしれない。 小さな出来事の積み重ねが、俺たちの歴史を紡いでいくなら、 もっといろんな所に連れて行きたいし、一緒に笑ったり怒ったりしたいと思う。
頂上から城下を見下ろし、栄華の名残を足元に確かめながら、もと来た道を戻る。
楓の下でサンジの弁当に舌鼓を打ち、爽やかな五月の風を頬に受けながら ごろりと横になると、頭の上の楓の葉がさわさわと衣擦れの音を立てていた。 重なり合った葉の隙間から零れる初夏の日差しが、サンジの周りに 光を集め、輝いている。 目を閉じて風に髪を遊ばせ、白い頬を少し紅潮させている姿は、 少年のようでもあり、反面、俺には勿体無いぐらいの神々しさで 風景に溶け込んでいる。
触れてはいけないような気持ちになって、伸ばしかけた手を引っ込め、 傍にある存在に感謝しながら俺も瞼を閉じた。
「歴史小説なんかを読むと…」 「ん?」
「城が落ちたのは、夏の終わりだったらしい。」
「そうか。もっと深い……」
さやと吹く風に夕方の気配を感じるまで、そうして時間は過ぎていき、 俺たちの休日は終わった。
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