それで、一番聞いておきたい事は、 僕が社長の会社で良いかと言うことですね
・・・もちろん。むしろ、そのほうが。
お互い、電話越しに意地悪く笑っているのがわかる。
もうかれこれ、10年くらい、つかず離れずの関係にあるE。 年は私よりもはるかに上で。 カメラマンという仕事をして、 芸能界という世界にどっぷりと浸かっている彼の話し方は、 いつも理路整然としていて、無駄が無い。
必要なことを手短に話して、 あとは、いつ寝れるのか、という主題に持っていこうとする。 私は、ありとあらゆる話し方をしなければいけないし、 「私」という一個人を別の人格にもっていかないといけない。 緊張感の必要とする相手と言うのはいるもので。 実際、力的に言えば、Eの方がはるかに強い。
都合のいいときだけ連絡を取って、 ホテルに連れ込む一歩手前で引いてゆく私を 何故そこまで助けるのか、不思議に思う必要は無い。 私の接し方は、ある意味で、Eのプライドを刺激しているのだろう。 それを目的として接しているのだから、 何処かで成功しているのかもしれない。 ・・・疲れるけど。
退職すると決めてから、 私が思うよりももっと速いスピードで 見えない意思が至る所で動き出している。
取る電話、取る電話、 いったい何処でかぎつけたんだと叫びたくなるほど 仕事の依頼の話だ。
とても恵まれているのだとも思うし、 昔から、そういう不思議な歯車と 隣り合わせで生きてきた私にとっては、 またやってきたか、としか感想を述べられないのだが、 今回の速さは今までで過去最高といってもいいとおもう。
さすがに、頭の処理能力がおいつかないので、 私よりも頭の回転の速い女性2名と今夜、デートしてもらう。 私は、今、起きている事柄をなるべく事実に基づいて話すだけだ。
Eは、今回、自分の名義で立ち上げる会社の秘書兼事務として 私を指名してきた、簡単に言えばそれだけだ。 私が提示した条件としては、最低賃金と、 もう一件、きている案件の作業を行えるだけの環境だ。
上手くいけば良いと思うのだが。
Eの片鱗を知る人間は、Eを表現するとき、 頬に人差し指をあて、縦にゆっくりとおろす。 言葉は無い、そのしぐさだけで、全てを表現する。
なぜ、そんな人間と繋がっているのか、不思議がられる。 私は傍目には、とても真面目で、何処にでも居る女だ。
その質問が一番困るのだ。 親しい友達ではないし、援助者でもない。 私は業界の人間ではないし、 Eとのであった切欠を考えると、とても戸惑う。
「いつかヤル相手です」
そう言う風に答えて、相手の反応を見てみたい。
Aの行動パターンが大体読めてきて、 私は自分のAに対する接し方をだいぶ確立してきた。 これで長く続けばそれで良いし、 駄目だったら、仕方が無い。 其処まで、Aに対して入れ込んでいる場合じゃないのだ。
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