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2001年06月28日(木) 火星に想う

夜半過ぎ。南の低い虚空に赤い星。
火星だ。
2年2ヶ月に一回、火星は地球に接近し、人々に吉凶を占う機会を与える。
かつて、民衆は火星接近の度に夜空を仰ぎ、自らの未来を想い、遥か第4惑星の神秘に空想を巡らした。
しかし、西暦2001年、人々はもう赤い星を見上げる事すらしない。

我々人類は老い始めた。
1960年代末の人類月到達を頂点としてただひたすらに衰退の坂を転げ落ちている。
少子化による人口ピラミッドの逆転は凡ての事象においてネガティブベクトルを示し、未来を絶望に置き換えた。
先日、公益法人見直しの報道がなされたが、あんなもの若年層の人口比が右肩上がりに延びていたらなんの問題もなかったはずだ。誰もがそれを信じ経済は順調に成長し、高度で快適な未来社会が約束されるはずだったのに・・。
あってはならないことが起きているのだ。
一方で高年齢層が増えたことにより安定した穏やかで平和な時代が続くと寝ぼけたことをいう者がいる。
愚かな。
成長と発展と革新がなくなった社会に未来があると思うのか?。
この文明社会を支えるあらいるインフラは高度な技術と莫大な費用と熟練した専門家と労働者によって維持されている。
あらいるエネルギー、電気、ガス、水道、下水、そして鉄道、道路、空港、港、更には網の目のように張り巡らされた通信ライン・・。あらいる物資の流通は一瞬の澱みさえ許されぬ。スーパーやコンビニになぜいつも豊富な商品が溢れているか説明するまでもなかろう。
これすべて豊富な人材と技術、資金あってこそ。これなくして1日たりとも維持出来ないのだ。
これが高年齢化と少子化に伴う労働人口低下と後継者不足によってやがては維持管理が困難になるのは火を見るより明らかだ。
何か大きな災害が起きた時、現在であればインフラ復旧にさほど時間はかかるまい。
しかし、これから20年後、30年後、大きな災害が起こればもはや復旧することは不可能になるかもしれぬ。その技術を持つ者がもはや存在しないからだ。人員も確保出来まい。
一旦、若年層が激減した社会はもはや現状維持さえ不可能となると覚悟すべきだ。

生物界は常に飽食か飢餓かのどちらかだ。
人類もまた例外ではない。
成長が止まった途端、やってくるのは戦争、災害、そして餓えだ。老いた社会にそれを克服するエネルギーは存在しない。
カタストロフは始まっている。
もし、今東京に大震災クラスの禍が起きれば2度とこの國は経済大国を名乗れまい。
もはや自力で現状を回復する力すら残っていないのだから。
今の行政府にこの難局を乗り切る具体的な戦略がないのは誰の目からも明らか。
あっという間にこの國は飢えと混乱と搾取と病と犯罪が蠢く廃虚国家と化す。

では日本國をはじめとする文明人類がこの危機的人口衰退を補うためにはどうするか?
人に代わる人に似たモノで補完するしかない。
それは時にロボットと呼ばれ、ヒューマノイドとよばれ、またレプリカントとも呼ばれる存在だ。
いやがおうにも遺伝子工学と人工知能による『造られしモノ』に頼るほかないのだ。他に手立てはないのだからね。
そしてやがてはその『造られしモノ』が人類を凌駕し、この地上に増殖し始めるのは時間の問題だろう。
ではそれで人類の文明社会は安泰か?
否。
やがては真人類と『造られしモノ』との間に軋轢、不信、嫉妬が生まれ新たな争いごとがはじまるのは必至。主人である人間がその下僕であるはずの『造られしモノ』に支配されるということに人間は我慢ならなくなる。そして『造られしモノ』自身も主人たる人間に敵意を抱くかもしれぬ。
人間が人間である以上この感情の掟から解放されることはないのだ。
これが哺乳類としての人類の限界なのだ。

結局のところ、この肉体に魂が宿る限り、滅びからは免れぬ。
唯一の策は、この肉体を捨て、魂を新たなステージへ昇華させること。
そう「人類補完計画」!
それのみが我々を絶望から救う手立てであることに疑いはない。
神をサルベージし、「ガフの部屋」の扉をひらくための業。
行政府はその神の業にもてる力を全て注ぎ込むのが真の責務であろう。
そしてそれを獲得した国家、民族、宗教のみが人類のあらたなステージに昇華出来る資格を神から与えられるのだ。

夜半過ぎ、火星は南中し、赤い怪し気な光を瞬かせる。
何回もの失敗にもめげず、探査機を火星に送り込む国家がまだある。
もしかすると火星に「ガフの部屋」が隠されているのかもしれぬ。かつて地球に訪れたはずの「超越した存在」。
彼等が火星に何か重要なものを隠していった可能性がない訳ではない。
「人類補完計画」完遂の鍵は火星にあるのかもしれないのだ。

唯一の希望、魂の新たな器が火星にあるとしたら?

かつて民が自らの未来を占うために恐れつつ見上げた火星。
因みに火星の衛星の名はフォボスとダイモス。
その意は「恐怖」と「不安」である。


絶望皇太子