深海図鑑

2001年04月08日(日) 彼の家

思い立って、善光の家に行くことにした。
あの家は、変わらず、あの町の、あの細い坂を登ったところにあった。

善光は、私が来たことに、ほんの少しだけ驚いて、でも、家の中に入れてくれた。
バスルームに、誰かがいる気配。
私は、あぁ、やっぱり新しい彼女がいるのだなぁと心の中で思った。

部屋は、前と変わらない場所にあるのに、入ってみたら、前より倍くらいの広さになっていた。
家具もこざっぱりしていて、余裕があった。

私は、前と同じように、ベットに座って、壁によりかかった。

ふと、バスルームから、女の人がでて来た。
体にタオル一枚を巻いて。
でも、それはまったくいやらしい感じではなくて、彼女は、ショートカットで、手足の長い、すらっとした人だった。
部屋に入ってすぐのところにおいてあった、Tシャツと半ズボンを持って、またバスルームにもどり、着替えて出て来た。
本当に、男の子のような体で、でも、それでも気持ちの良い色気のある人だった。
すごく素敵な人だった。

彼女は、私をちらっとみたあと、窓側の壁に寄り掛かって、本を読み始めてしまった。

私は、なんか、善光といろいろ話したような気がするけれど、あまり覚えていない。

昼間についたのに、あっという間に夜になった。
「もう帰るね。どうもありがとう」と私は言った。
善光も何か言ったけれど、全然覚えていない。

春と夏の合間の、不思議な暖かさの夜で、駅まで帰りながら、猛烈に一人を感じた。





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