TENSEI塵語

2002年03月23日(土) 三枝成章のチェロ協奏曲

チェロ協奏曲といえば、何といってもドヴォルザークである。
これはもう最初から最後まで充実した、非のうちどころのない名曲である。
第1楽章など、あんな何でもないテーマから
どうしてあんな密度の濃い音楽が展開されるのか、奇蹟のような作品である。

エルガーのチェロ協奏曲も、涙なしには聴けない。激情の発露といった感じだが、
それは第1楽章だけで、その後はそれほど心を揺さぶらない。
その点では、ブルッフやメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と似ている。

一昨年だったか、近所の小さなCD屋で、
三枝成章の「コンチェルトの夜」という2枚組4千円のCDを買った。
もちろん、知っている曲などひとつもない。
でも、1カ月か2カ月に1回、散歩がてら立ち寄るその店で、
数年間、棚の同じ場所にそのCDを見続けていて、しばしば迷っていたのである。
買ったときには、数年間売れ残っているそのCDが不憫になったせいでもあるけれど、
数年間見るたびに迷っていたのは、新たな叙情的な世界をもたらしてくれそうな
予感に賭けてみようと思ったのだった。

その中で1番気に入ったのが、チェロ協奏曲「王の挽歌」である。
冒頭は、雷鳴がなったり、チェロソロの無調風のカデンツァがしばらく続くけれど、
主部に入ると、いかにも現代のロマン派が好みそうな虚空をはかなく漂うような、
特徴ある抒情的なメロディーを根幹にして音楽が展開されて行く。

今夜市吹の練習から帰って、ウイスキーを飲みながらくつろいでいるときに、
このCDが目に入って、ふっと聴きたくなって聴いてみたのである。
ハイドンやサンサーンスのチェロ協奏曲などは、聴いている分には心地よい
痛快な気分にもなるけれど、積極的にわざわざ聞こうとは思わない。
けれども、この「王の挽歌」は、時折むしょうに聞きたくなるのである。


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