TENSEI塵語

2009年01月13日(火) 「シンメトリー」の『手紙』

「でもね、この順番って、大切だなって思ったの」

「そう、順番。
 普通、罪を犯して罰を受けたら、赦される。
 だから刑務所から出られて、再び社会生活を営める、、じゃない?
 でも彼女の場合、罪を犯し服役したけれど、
 まだその時点では、罰を受け入れていなかった。
 自分の過ちを認めないまま、刑期さえ過ぎればいいと考えていた。
 でも、そこに社長からの手紙が届いた、、、彼女の心に。。
 ・・それがきっかけで、本当に罰を受け入れて、罪を償う気になれた」

「つまりね、罪を犯した人間は、まず赦されて、
 その赦しを感じることができて初めて、
 罰を受け入れることができるんじゃないかな、って思ったの。
 ・・もちろん、理想論よ。

 そうじゃない場合の方が圧倒的に多いと思う。
 でも、そういう人は、罰を受けたんだから赦されてしかるべきだ、
 って感覚が、どうしても拭えないんだと思う。
 罰を、受け流して終わりにしてしまう、っていうか?
 だから、再犯の可能性が残る。。

 でも彼女はそうじゃなかった。
 自分は赦される、、受け入れてくれる社会がある、、人がいる。。
 そう実感できたから、罰を心で受け止めて、
 罪を償う気になれたんじゃないかな」


誉田哲也の「シンメトリー」を読んだ。
以前書いた「ストロベリー・ナイト」の姫川玲子刑事シリーズの
第3弾だと思うが、こちらは短編集である。
一編読むごとに、姫さまがかっこよくて、惚れ込んでしまうのだが、
きょう読んだ最後の「手紙」のラストに考え込んでしまった。

この短編の犯罪者は、職場で、ある女から執拗な非道いイジメを受け、
さらには、自分の唯一の拠り所である職場を奪われる危機感から、
その仕掛け人の女を殺してしまった女性である。
悪いのは殺された女であり、同情すべきは殺した方の女性である。
しかし、法はそういう心情を許さない。
法の冷淡さに、殺した女性は、殺した後もずっと開き直ってるわけだ。

けれども、獄中で受け取った社長からの手紙で、彼女の心は変わる。。
刑事たちが驚くほどの更生をする。


とても難しい問題だ。
金輪際許すことのできないような犯罪者もいる。
神さまでも赦せますか? というほどの犯罪者もいる。
反面、何でこの人が罰せられなきゃいけないのかという場合もある。
一時期、貪り読んだ松本清張は、
二進も三進も行かなくなって犯罪に及んでしまう、
哀しい犯罪者の物語をいくつも描いていたなぁ、、と、
そんなこともいろいろ思い出してしまった。

でも、赦された、という実感があって初めて、
再び生きることができるようになる、ってのもよくわかる。。。


 < 過去  INDEX  未来 >


TENSEI [MAIL]