待ちぼうけ - 2001年05月12日(土) 「Hello」 「Hello?」 「Hello, it's me」 「・・・」 「もしもし。僕だよ。」 「なんだー。わかんなかったよ。」 「上手くなった? 英語。」 「うん、上手くなった、上手くなった。」 「惚れ直した?」 「うん、惚れ直したよ。」 「ははは。」 朝の5時頃だった。 「ごめんねー、こんな時間に。寝てた?」 「起きてた。」 「ほんと? あのねー、昨日スタジオでレコーディングしたんだよ、作った曲。」 「へえ。すごいじゃん。」 「うん、すごい楽しかった。なんか英語もわかるようになってきたんだよ。自分でもびっくり。自由に会話なんか全然出来ないけどさ、相手の言ってることがなんかわかるようになってきたんだよね。」 すごいよ。嬉しい。頑張ってるね。ほんとに嬉しい。音楽やってる人は耳がいいから英語も上達が早いんだよね。 「今日わたし卒業式だよ。」 「そうなの?」 「そうなのって、ひどいー。忘れたの?」 「いや、だってなんかまだ日にちの感覚がわかんないから。時間なんかめちゃめちゃだし。今日もこれからミーティングなんだよ。」 「これからって、夜中なのに?」 「うん。関係ないんだよ。今日なんか昼まで寝てたし。あ、卒業おめでとう。」 「ありがと。」 「夜、また電話するよ。ちゃんとお祝いしてあげる。何時ごろ帰ってる? 遅いよね、きっと。卒業式のあとみんなでどっか行ったりするんだろ?」 「どうかなあ。わかんない。でももし行ってもそんな遅くなんないようにする。」 「いいよ。いなかったらまたかけるから。気にしないで遊んでおいでよ。一生に一度の卒業の日なんだからね、友だちといい思い出作んなきゃだめだよ。」 さっきまで弟みたいだったのに、急に大人ぶってる。年下の彼女にはいつもこんなふうに話すのかな。 「きみにいっぱいおみやげ買ったんだよ。」 「だめじゃん、無駄遣いしちゃ。あたしのおみやげなんかいいよー。」 「だって買ってあげたいから。きっと喜ぶよ。今日すっごいかわいいの見つけたんだ。」 「なあに?」 「カエル。」 「何それ?」 「かわいいんだよー。絶対気に入るよ。」 「ふふ。なんだかよくわかんないけど、嬉しい。」 ー彼女にもおみやげ買ったの? ー日本は今頃ちょうど夕方だよね。彼女にも電話したの? わたしにかける前にかけたの? 当たり前だよね。おみやげ買うのも、電話するのも。彼女なんだもんね。だめ。だめ。だめ。考えないって決めたじゃない。でも気になる。気になる。気になる。でも聞いちゃだめ。 卒業式のあと、友だちとお祝いの食事に行った。そのあと飲みにも行った。わたしの好きな、友だちの住む街。入り江の向こうにシティの高層ビルが並ぶ。夜になると見事な夜景になる。街は活気があって、きれいじゃないけど生き生きしている。アパートのビルと家がひしめきあって立ち並ぶ住宅街。ちょっとおしゃれで居心地のいいレストランやバーが目立たないところに点在している。そして、いつも賑わってる。ここに来る前に住んでた街を少し思い出させてくれる。 「彼はほかの人と結婚しちゃうんだよ。いくらお互いが思い合ってても、どうにもならないんだよ。ねえ、自分の幸せ探しなよ。もっと自分のこと考えなよ。どんなに大切に思ってくれたって、彼はアンタに幸せくれないんだよ。」 友だちが言った。 そうだね。ちょっと環境変えてみようかな。あの街に引っ越そうかな。何か見つかるような気もする。あそこは素敵な街。わたしを元気にしてくれそう。 でもね、思い切れない理由がある。あなたが来てくれるまで、引っ越せない。だって、このアパートであなたと過ごす何日間かを思いながらもうずっと待ってるんだもの。あなたが気に入ってくれるように、素敵なお部屋にしたんだもの。あなたを待ちながら過ごしたこの部屋を、見てほしい。 でも今日・・・夏に来てくれる約束が、また延びるかもしれないって言ってた。もう待ちぼうけはいやだよ。辛すぎるよ・・・。 いない間に電話してくれたのかな。またかけてくれるのかな。ーずっとずっと待ちぼうけのバカなわたし。 -
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