気持ちを止めてくれる人 - 2001年05月13日(日) クリスの写真展に行った。 もう一週間前のことだけど。 数点だけのショウだったけど、作品はどれも深みがあった。 構成にも色にも、撮影時から完成までの間作品に入れ込む作家のこころが反映してた。 ああ、この瞬間にシャッター切りたいってぞくぞくしたんだろうな、とか、この色出たとき、やったって思ったんだろうな、とか。その「ぞくぞく」や「やった!」が伝わってきた。 人がどんどん増えてくると、レベッカが自分のことみたいに喜んでた。「最初はまばらだったから、どうしようって思ったけどね。よかったあ」。ここのショウは楽しい。出されるビールやワイン片手に、みんなでわいわいがやがや楽しむ。犬を連れて来てる人もいたりして。 レベッカはクリスが好きだった。 お花見に行ったとき、はなみずきの木の下に立ち止まって花を見上げてたわたしをクリスがずっと待っててくれた時も、お昼のあと芝生の上にねっころがるのをためらってたわたしにクリスが自分のジャケットを敷いてくれた時も、レベッカはやきもきしてた。 「僕はステディな関係は要らないんだ、今は」って言われたらしい。それでもレベッカはクリスが好きだった。 クリスは素敵な人だ。繊細でそれでいて野心があって、だけど特別深刻なわけじゃなくて明るくて、おどけるのが好き。優しくて人にさりげなく気を使ってるのがわかる。遊ぶことも好きで、いつもエネルギッシュ。なんでも頑張るとこがあの人に似てるな。ジョークが大好きなとこも。 写真展でも訪れる人たちひとりひとりにとっても気配りしてた。おどけて見せたりジョークで笑わせたりもしてた。作品のことになると、優しい顔つきが険しくなって、熱っぽく語ってた。写真が好きなわたしはもっともっとクリスと話したかったのに、「ねえ、何そんなに話しこんでるの?」って腕を引っ張るレベッカに気を使って、あまり話せなかった。 昨日レベッカが言った。「わたし、クリスのことはふっ切れたの」。今、昔の彼と会うのが楽しいらしい。「愛してないよ。昔のことだもん。でもセックスはする」ってケラケラ笑ってる。表情がかわいくなったなあって思った。 「クリスはゲイなの?」。もうひとりの友だちがわたしにいつも言ってたことをさりげなくレベッカに聞いた。 「バイなんだよね。それは確か」。レベッカが答えた。 バイ。ーバイセクシャル。 好きになっちゃったら、きっとまた苦しさにがんじがらめ。いっぱい悩んじゃうだろうな。 人を好きになるときって、いろんな状況とか相手の立ち場とかに引き止められることがある。自分の気持ちを引き止めようとする。友だちの好きな人だから好きになっちゃいけない、とか、恋人のいる人だから好きになってもしょうがない、とか。 だけどわたしは好きになっちゃった。彼女がいて、うんと離れたとこに住んでて年も離れてるあの人のこと。こんなに好きになると思っていなかった。ううん、違う。予感してた。初めからものすごく愛おしかった。 止められなかった。止められなかった。 気持ちをぶつけたら、ますます止められなくなった。 誰か止めてくれる人があらわれる? レベッカの昔の彼みたいに。 -
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