天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

生みの苦しみ - 2001年07月18日(水)

朝早く、健康診断に行く用意をしてたら電話が鳴った。
明日から行く名古屋の仕事に、急遽デモを一曲増やすことになったって。
それでこれからスタジオに缶詰で曲を作るって。

「今から作るの? 明日までに? そっち今もう夜の7時でしょ?」
「そうなんだよ。まだ構想もなんにも出来てない。」
声が焦ってる。
「焦らないで。焦っちゃだめ、焦っちゃだめ。」
「焦ってる? わかる?」
「わかるよー。いつでもいくらでも曲がポンポン作れると思ってるんだ、会社の人みんな。」
「そう。機械じゃないのにさ。今日さー、久しぶりに友だちと鍋パーティだったのに、キャンセルだしさ。」
可笑しいよ。鍋パーティどころじゃないじゃん。それも「鍋パーティ」って・・・。
「じゃあさ、『鍋パーティをキャンセルせざるを得なくなった怒りの曲』ってのは?」
「怒った曲か。う〜ん。」
いつもみたいに笑わない。焦ってる。
「3人でスタジオ入りなんだけど、僕が作らなきゃなんにも始められない。どうしよう?」

プレイライターの友だちが言ってた。一週間後に芝居の練習が始まるのに脚本どころか頭の中さえ白紙だった時は、飛び降りようかと思ったって。みんなが待ってる。期待されてる。それに応えなくちゃいけない。なのに創れない。「クリエーターの生みの苦しみ」って彼は呼んでた。

「焦っちゃだめだよ。きっと出来るから。いつもちゃんと素敵な曲が作れてるじゃん。こういうときこそ、すごいいいのが出来るかもよ。」
「うん。焦るとだめだよね。ちょっと落ち着いてきた。頑張るよ。」
こんなとき、頑張ってなんて言いたくなかったけど、気持ちはめいっぱい「頑張って」だった。
「頑張って。頑張って。頑張って。頑張って。」
やっと笑ったあの人が言う。
「もっと言って。」
「頑張って。頑張って。頑張って。」
「嬉しいよ。もう行くんでしょ?」
「うん。ごめんね。・・・もっと落ち着けるまで話してたい。」
「大丈夫だから行きなよ。すごい落ち着いてきたから。僕も機材積まなきゃいけないし。」
「ずっと応援してるからね。」
「うん。よかった、電話して。気をつけて行くんだよ。車、ぶっ飛ばしちゃダメだよ。」

こんなときにも心配してくれる。ちゃんとキスもしてくれる。だけどキスにまだ不安がわかる。頑張ってね。ほんとに頑張ってね。大丈夫だから。そう思うと、なぜか名前を何回も呼んでた。「頑張って」よりも「大丈夫だよ」よりも、もっと素敵なことを言ってあげたかったのに、言葉が見つからなくて、出てきたのは「大好きよ」。あの人は笑った。

「メールちょうだい。励まして」っていうリクエストに応えて、いっぱいメールを送った。いつものようにEカードも。病院から帰って来てチェックしたけど、見てないみたいだった。日本は朝の5時。まだスタジオなんだ。


日本の朝8時半。ピックアップ通知は来てない。もう名古屋に行っちゃってる? 出来たのかな。大丈夫だったのかな。お願い。上手く行ってますように。


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