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全部 - 2001年09月08日(土) 朝6時ごろ目がさめて、今日は頑張って勉強しようかなって思ってたら電話が鳴る。 「Hello?」 うそ。あの人の声? 黙ってたら、「もしもし?」。 大きな声で名前を呼んだ。「なんで? どうしたの?」。あと2日あるはずなのに。 答えないであの人が言う。「今かけなおせる?」 これからまた大阪に出張だって言った。あんまり疲れたから一旦うちに帰ることにしたって。明日また朝早く行くんだよって。 「変な夢見たよ。」 「どんなの?」 「きみがガムくれってきかないんだよ。ガムちょうだい、ガムちょうだいって。あげないでいたら、泣き出しちゃってさ。そんな夢見たから、早く電話しなきゃって思った。」 わたしの夢見てくれた。夢の中のわたしは去年の夏の初めのまんま? 送った写真のわたし? もうずっとずっと長いこと、声を聞いてないみたいだった。 「すっごい久しぶりみたい。」 「すっごい久しぶりじゃん。」 わたしが言ったのは、もう何年もって意味だったんだよ。 あの人の声は、わたしのからだを優しく砕いていく。 そして、クラッシュの氷の上からお湯をかけたみたいに、砕かれたからだが音を立てながら溶けていった。水になったわたしが、あの人の声にゆらゆら揺れてる。 「めちゃくちゃ疲れた〜。」 「大丈夫?」 「うん・・・。でも楽しいよ、疲れるけど。『お疲れさま』って言ってよ。」 やだよ、そんな奥サマっぽい台詞。夫にだって言ったことない。彼女に言ってもらえばいいじゃん、って思う。だけど言ってあげる。思いっきりかわいい声で、「オツカレサマ」って。そして少し悲しくなる。 疲れてるなら、この水を飲んで。 あなたのからだの中に閉じ込められてしまえればいい。 ずっとそこにいて、あなたのからだを守っててあげるよ。 あなたの命の水になりたいよ。 あなたがふたりいればいいのに。 「なんでひとりしかいないの?」って、いつか泣いて困らせた。 「そんなにガムが欲しかったのか。」 「なんでくれなかったの?」 「あげたよ、最後には。」 ちょうだい。 あなたを全部ちょうだい。 最後には、わたしに全部ちょうだい。 あなたじゃなきゃだめ。やっぱりだめ。 涙が出るくらい、あなたが好き。 なのに、明日わたしはドクターに会いに行く。 そしてドクターの腕に手を伸ばす。 ドクターをもうひとりのあの人だと思いながら。 -
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