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世界一安全な場所 - 2001年10月13日(土) 休暇気分がだんだん減っていく。 ここにメールとニュースをチェックしに来るたびに、心配が増す。 世界は一体どうなってしまうんだろう? 僕たちは帰ることを真剣に考えている。 ここは安全だよ。今世界一安全な場所なのかもしれない。 ただ、帰りたいと無性に思う。 何が起こるかわからないこの時期に、 ここでこのまま休暇を過ごしている気になれない。 きみにはずっと連絡するよ。 今日のドクターのメールは悲しくて重たかった。 ニュースを読む。あの炭疽菌の粉が入った郵便物は西でも見つかって、アメリカ全域にわたる可能性をほのめかしてる。「神経質にならないように」などと言いながら、不審な郵便物は開けないことって警告する。テロ組織はイギリスとアメリカに、アフガニスタンへの空爆の報復を宣告した。「警戒するように、注意するように」。何をどうやって? 不安ばかり駆り立ててる。 仕事をしている間は何も考えずに済む。うちに帰ると、全てのこととひとりでいることが怖くなる。 ドクターの胸のざわめきと心配が体中に痛いくらいにわかる。帰って来て欲しい。すごくそう思う。だけど、あんなに楽しみにしてた休暇を台無しにして欲しくない。 ずっと働き過ぎてたんだから、世界一安全な場所で過ごす休暇が今あなたにふさわしいんだよ。 心配しすぎないで、残りの休暇を楽しんでくれるように願ってます。 返事を書いたけど、ドクターの気持ちを思って少し後悔した。 夕べ、遅くに夫に電話した。とても怖くて眠れそうになかったから。夫にはわたしの怖さはわからないみたいだった。アメリカがやったこと、戦争の無意味、大統領のラディン家との過去の関わり、そんなことを並べたててたけど、わたしが聞きたかったのはそんなんじゃなかった。ただわたしはこの恐ろしさを取り除いて欲しかった。途中から夫の話に上の空だった。やっぱりダメなんだと思った。この人じゃないと思った。そんなことわかってたはずなのに、電話をした自分が嫌になった。 明け方近くに電話が鳴った。あの人だった。おじいちゃんは退院出来そうだと言ってた。「あなたは元気なの?」「すごく元気。話したいことがいっぱいあるんだけど」。今回は余分なお金がなくて、切りつめなきゃいけないからって言った。ほんの少ししか話せなかった。「コレクトコールでかけ直して」って言おうと思ったのに、眠気でぼうっとしてるうちに言いそびれた。アップビートな音楽が周りで聞こえてて、あの人の声はそれでもやっぱり近かった。明日のこのくらいの時間にまたかけるよって言ってくれた。嬉しそうな声だった。 あの人は多分こっちのニュースを知らない。知らないでいて欲しい。あの人が日本に帰るまで何も起こらないで欲しい。帰るまで、何も心配しないでいて欲しい。 あの人をすべての心配事から守ってあげたい。 そばにいられなくてもいい。そばで支えてあげられるのはわたしじゃない。 ただ、何も何も悪いことがあの人に起こらないでいて欲しい。 そして、わたしはドクターにそばにいて欲しいと思う。 多分、今、わたしの世界一安全な場所・・・。 -
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