赤ちゃんが欲しい - 2002年04月23日(火) CCU のナースステーションにいたら、ポカッと後ろから頭を殴られた。 「だれー?」って椅子ごとくるっと振り返ると、精神分析医のドクターが笑ってた。 すっごい久しぶり。 わたしが休暇から帰って来たあと、もう B5 には現れなかったから。 精神分析医なのに CCU もカバーするんだ。へえ。って思ってたら、 「ここもカバーしてるの?」って、先に聞かれた。 「ジェニーのフロア、カバーしてるだけ。ジェニーってのは同僚で、今日はお休みだから・・・」って、最後まで言わないうちにドクターは患者さんの病室に消えた。失礼なヤツ。ひとりで笑っちゃった。 休暇の前まで毎日顔合わせてて、センスのないジョークとか言うから疲れるなあって思ったり、「明日から休暇なんだよ」って話したときも、「写真いっぱい撮ってきて見せてよ」って言うからめんどくさいなあって思ったりしてたのに、今日は久しぶりに顔見て嬉しかった。 嬉しかったのは、なんかむしゃくしゃしてたから。 むしゃくしゃしてたのは、今日アニーのオフィスの女の子が「妊娠した」って嬉しそうにみんなに話しに来たから。 最近、妊娠したり赤ちゃんが産まれた話が多い。 ドリーンはふたりめが欲しくて、生理が来るたびがっかりしてるし。 こういう話はもうずっと周りになかったし、克服出来てるかなって思ってたのに。 わたしは赤ちゃんはもう産んじゃいけない。産めない体になったわけじゃなくて。そう言われたわけでもないけど、医学的にも生物学的にも危険因子がいっぱいだってわかってる。それを認めるのは辛かった。でも、もう克服したかなって思ってた。 「おめでとう。よかったねー」なんて思いっきり笑顔で言うけど、ほんとに心から祝福出来るんだけど、そのあとなんでだか挫折感みたいのがザーッと体中を走る。それで落ち込んでしまう。そしてむしゃくしゃする。 マタニティーの病棟で産まれたての赤ちゃん見るのは全然平気なのに。お母さんやお父さんに連れられ病院に来るちっちゃい子どもたちも可愛くて仕方ないのに。ドリーンのおちびちゃんのメグだって大好きなのに。小児科の ICU は辛いけど、そういうのとは全然別な、なんか敗北感とか挫折感とか喪失感とか、そんな。なんだろうこの気持ち。わかんない。 わたし、赤ちゃん欲しい。 あの人の赤ちゃんが欲しい。チープなソープオペラにさえ出て来そうにない台詞だけど。 危ない日にあの人レイプして妊娠して、危険因子なんか追っ払ってしっかり健康に産んで、こっそりひとりでここで育てたいって、そんなジョークみたいなこと、今でも時々かなり本気で夢見たりする。本気で夢見たりするけど、それはちゃんと夢の夢の夢の夢ってことにしてる。 だけど赤ちゃん欲しい。 あの娘がいるときから思ってた。赤ちゃんアダプトしたいって。 世の中には親がいない子どもたちがいっぱいいる。だからアダプトの制度もちゃんと確立されてて、幸せになってる子はたくさんいる。「あたし、養女なんだよ」とか「姉はお母さんから産まれた子なんだけど、あたしはアダプトされた子なの」っていう友だちもいるし、アダプトした夫婦も知ってる。Dr. ハナハンはずっと独身で、50を過ぎてからぼうやをアダプトした。ときどき病院にくっついてくる9歳になるぼうやは、歳取ったお母さんのことをいつも、「マミーが大好き」って言ってる。わたしの知ってる限りでは、みんな普通に幸せだ。普通に幸せで当たり前だと思う。 決して簡単なことじゃない。前に住んでたとこの友だち夫婦は、申し込んで10年待ったけどだめで、あきらめちゃった。その頃は真剣に考えてなかったけど、いつからか真剣に考えるようになった。あの娘が死んでから、離婚してから、もっと真剣に考えるようになった。独身でもアダプト出来ることもわかったし、あとは生活の保障がなくちゃいけないんだけど。今のわたしには申し込む資格もない。だけど将来赤ちゃんをアダプト出来るように、頑張って生活の基盤しっかり確立しなきゃって思ってる。 家族が必要な子どもたちがいっぱいいる。子どもを産めないって認められなかったら、こんなに真剣にアダプトを考えることもなかったと思ってた。だから、ちゃんと認められてるんだと思ってた。 認めて克服なんか出来てなかったのかもしれない。 ただ、こんなギリギリの生活してて、将来の安定なんかどこにも見えなくて、赤ちゃんアダプト出来るなんて、わたしにそんなときが来るんだろうかって、 今日また妊娠の話を聞いて、そんな現実を突きつけられたせいかもしれない。 それともほんとはそんなことじゃなくて、 またあの人のすぐ先の将来が、重なっちゃったのかもしれない。 もっとバカだけど、夢の夢の夢の夢さえも、あきらめられずにいるのかもしれない。 -
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