鍋をたたく...鍋男

 

 

チューニング、調律  - 2001年05月18日(金)

 最終的にあの澄んだスティールパンの音を出すのは、チューナーと呼ばれる職人によるところが大きい。
 根気と知識と経験、それに飛び抜けて感度のいい耳を持っていなければ、パンのチューニングは難しい。ほとんどのトリニダードのプレイヤーに自分のなじみのチューナーがいて、自分でチューニングすることは少ない。それだけに、いいチューナーというのは、大変尊敬されている。

 「民族音楽」「ドラム缶から作った楽器」というと、原始的な物だと思われる方がどうしてもおられる。音を聞いていない時点で、「スティールドラム(直訳:鉄太鼓、英語の本当の意味はドラム缶)」というパンの別名を聞いて、荒々しいサウンドを想像されるのは仕方がない。だが、すこしでも楽器の経験がある方なら、ただの鉄板の固まりからあのきれいなサウンドを出すのに、どれだけの技術の蓄積がいるか、すぐに想像がつくだろう。
 私の場合、パーカッションをやっていたこともあり、世界中のいろいろな材料、形、原理の楽器を目にする機会も多かった。そんな中で、パンだけは、音の出る仕組みがどうしても理解できなかった。本物を見て、なんとなく雰囲気はわかったものの、それを調律するのに、どれだけの手間暇がかかっているのか、想像できなかった。

 日本で4年の間、チューニングをほとんどせずに演奏活動をしていたが、やはり無理があることを身にしみて、4年前にトリニダードからアメリカへ、チューニングの勉強をする旅に出た。ここで得た物はとても大きかった。最初にチューニングの基本的な理論を聞かせてもらって、そのとおりに音が変化することを目の当たりにしたとき、冗談ではなく、私は涙ぐんでしまったほどだった。この旅はのちに、チューニングでお困りの方が多いことを危惧して、手軽にチューニングを依頼してもらえる専門店(スティールパンショップ キュレップ、現スティールパンラボ キュレップ)を立ちあげるきっかけになった。

 チューニングの具体的なあり方については、私のwebsiteに、大まかですが書いてあります。ここでは専門的すぎるので、割愛させていただきます。

 今日本で、きっちりとしたチューニングができる人が何人いるのか、僕は知りません。話を聞いた分では、東京のプレイヤーであるH氏、千葉のショップオーナーのS氏はある程度しっかりしたチューニングができるようです。ただ気になるのは、実際にチューニングをできない人が、仕事をしているようだということ。
 数年前に大手のK楽器さんの店先に、音程、音色、共に狂ったパンが展示してあり、彼等曰く「うちの社員でチューニングのできる者がおりますので」と言い切っておられたのには、びっくりした。あれでは音程を整えるのは遠い先の話、ましては、きれいな音を作るなど夢の話でしかない。非常に残念なことだが、あれだけひどい音をチューニングができていると言える、そしてそれを売れる彼等の神経を疑わざるを得なかった。(結構な値段で売ってました) 客の方も「こんな物か」と買っていくのかも知れない。そうして粗悪なパンが日本国内に増えていくなら、とても悲しい。

 えらそうに書いている私ですが、仕事をはじめた頃は、道具がそろわず、何度も中途半端な仕事をして、頭を下げました。店の形にして3年、先日研究所の名前に変えましたが、最近になってようやく、道具や周辺の環境も整ってきて、いい仕事ができる自信がついてきたところです。先ほどのK楽器さんでもチューナーの方が辛抱強く、少しづつ、いい仕事ができるよう努力なさっていれば、今頃結構いいチューナーになっているかも知れません。
 それでも私はまだ、チューナーとしては3年坊主、チューニングしてきたパンの数はたかだか100前後、作ったパンに関しては十数個しかありません。トリニダードのチューナーに言わせれば、「ベイベー」です。

 これから長い時間をかけて、ベイベーからメンに向かって、歩いていかなければいけません。のんびり、でもしっかり着実に歩いていこうと思っております。

 なんだか決意表明みたいになってしまいました。でもこれが今日の私の思うところ。


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail Home