一橋的雑記所
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そんな感じで、二つ目。
少し変わったかしら。
不意に、窓辺から届いた声。 空耳一歩手前のその呟きが幻でない事は。 こちらに背を向けている彼女の背中を見た瞬間何となく知れて。
そうかしら。
同じように、吐息に混ぜ込むようにして呟きを返す。 手元のティーカップからはほんのりと白い湯気が立ち上り。 冷えた空気をその道筋の分だけ温めてくれる。
常ならば教室に腰を落ち着けて。 退屈ながらも穏やかな日常を形作る時間を過ごしている筈の二人は。 けれども、それぞれの進路を既に決め終えた身であり。 級友たちの大半が姿を見せないあの場所にではなく。 長らく慣れ親しんだこの場所で。 示し合わせた訳でもなく共に束の間、午後のひとときを過ごしている。
ええ、あなたもね。
先程よりは輪郭のくっきりした声音はいつも通り気怠げで。 その事に少し安堵のようなものを覚えつつも、思わず苦笑を零す。
私?
そう。
西に傾き始めた陽の光をその横顔に受けながら。 窓辺の彼女が静かに振り返る。
そうかしらね…あなたは相変わらずのようだけれども。
そうね。
冬の陽射しと影に縁取られた彼女の顔はくっきりと。 それでも、どこか茫洋としたものを湛えたいつものそれで。 だからこそ、先程感じたもの以上の安堵めいた感情を胸の奥に灯してくれる。
彼女は、変わらない。 いや、変わらないようでいて恐らく。 自分の預かり知らぬ所できっと。 数多くの変化を遂げているのだろうけれども。 それでも、この目に映る彼女は、始めて逢った時と同じように。 何かを求めながらさりとてそれに対する焦燥も渇望も面には表す事は無く。 その計り知れない心の奥深い所にはきっと。 自分であれば制御しきれないかもしれない程の。 荒れ狂う嵐や波を抱えたこともあっただろうに。 それでも、それらは決して面には表れることなく。 ただ、彼女の顔は目は、淡々と。 真っ直ぐに前に向かっていたのだ、いつも、いつでも。
その姿に、自分は何度、救われてきただろう。
……なんてことはきっと。 一生、口にすることはないだろうけれども。
なあに?
不自然に長引いた沈黙を気にしてか。 彼女の、形の良い眉がほんの僅か歪むのを見て。 少しだけ愉快な気分になる。
ううん。お茶、冷めちゃうわよ。
そう、とだけ呟いてまた、彼女は窓の外へと視線を転じる。 そこにはきっと、もう一人の友の姿があるのだろう。 空いたポットを手に席を立ちながら。 そして、もう一組のティーカップを用意しながら。 そっと、囁いてみる。
有り難う。
その場の空気を揺らす事無く零されたその呟きは。 この部屋のドアの外から響いてきた。 懐かしい足音の中に紛れて、消えた。
2005.01.07.
凸蓉二つ目……?(何)
これまたリハビリちっくにて、お目汚し、失礼をば(平伏)。
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