一橋的雑記所
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2005年12月10日(土) |
ついでながら、やってみた。※実は20060514.その2 |
閑話休題。
連続書き書きの方は一旦御休みして。 静留さんパートです。
今年の内に受けた地元の大学に程近い。 図書館を利用する為に、バスで通う。 何もそんな真似をわざわざ…と。 同級生の中には不審に思う者も居たけれども。
――その方が、集中できるんよ。それに遅ぅまで開いてるし。
はんなりと笑ってその疑問を躱し。 毎日、閉館時間までそこで過ごすのがこの所の日課。 風は随分と、冬の匂いを帯びてきた。 数日前、最後に見たあの子の横顔をふと思い出して。 微笑むと同時に、酷く寂しさを覚える。 ちょっとずつ、距離を置いてきた。 あの祭りの日を境に。 以前のように無邪気さを装うことが。 出来ない自分ではないけれども。 あの子の真っ直ぐな眼差しを思うとそれはどうしても。 許されないことのように思えて。
――……あかんなあ……。
いつから、うち、こないにやわになったんやろ、と。 吐息で曇る窓ガラス越しに海岸線を眺めて。 泣きたいような気分で、微笑んだ。
片恋暮色
今日は半日を、引越し先を探すのに費やしたから。 いつもよりは早めに学園に戻る事になった。 三年生は、受験の為の自由登校期間に入っているので。 午後の授業の合間の休み時間に私服で校内を歩いていても。 誰にも見咎められる事はない。 目敏い後輩の何人かにその姿を見つけられ挨拶されるのにも、 適当に愛想良く応えながら寮へ戻ろうとしていた時だった。
「……あ、会長さん?」
擦れ違いざま、声を上げたのは。
「ああ、鴇羽さん?なんや、お久し振りどすなぁ」
あの子の友人の一人だった。
「でも、うち、もう、会長とちゃいますえ?」 「ああ…そうだった。失礼しました、藤乃先輩」
てへ、と舌を出して笑ってみせる姿には以前の影は何処にも見当たらない。 彼女の潔い清々しさに、どれだけあの子が救われているかを思って。 微笑みながら、また、この胸の中にさす寂しさに気付く。
「その後、あんじょう、お過ごしどした?」 「ええ、お陰様で……あ、そうだ、会ちょ…じゃなくて藤乃先輩」
もうすぐ休み時間が終わろうかという頃合いの為か。 彼女は慌しく、あの子が次の授業をサボって何処かへ出かけた事を教えてくれた。
「多分、寮に帰ったんじゃないかと思うんですけれど…方角的に」 「へえ……おおきに、鴇羽さん」
いえいえ、と大きく手を振って彼女は照れたように頬をかいてみせた。
「なつき、この所またサボり癖出てきたみたいで…会ちょ…藤乃先輩からも、 ちょっと言ってあげて下さい」 「ふふ……承知しました。……それにしても」
はい?と小首を傾げた彼女に、ゆったりと微笑を向ける。
「あの子にも、ええ友だち、出来たんやね…うち、安心しました」 「はいぃ〜い?」
私?!と言いたげに自分を指差す仕草がなかなか、可愛らしい。
「あの子、ほっといたら何もせえへん子やから、 鴇羽さんみたいに面倒見のええ子が側についててくれたら安心どす」 「そんな……」
照れ隠しなのかやだなあと笑って見せた後で、不意に彼女は真顔になった。
「でも……私じゃダメだなあって思うことも多いですよ…?」
何が…と問いかけて、思い直す。
「そんな事、あらへんよ?」 「いいえ、何て言えばいいのかな……」
真剣な顔と眼差しで、真っ直ぐに、見つめて来る。
「たとえば」 「たとえば?」 「煮物にマヨネーズを大量に掛けられたら、本気で殴り倒したくなります」
真剣な顔して。 何を言うかと思うたら。 思わず吹き出してしまったら、「笑い事じゃないですよ!」と彼女は生真面目な大声を上げた。
「だから、卒業しちゃう前にあの子の悪食、治して貰わないと困ります」 「治す…って、うちが?」 「はい!」
相変わらず、真剣な顔。 けれでも、その言葉の向こうにある、彼女の思いが透けて見える気がして。 そっと、目を逸らす。
「かなんなあ…そろそろ楽隠居さしてもらおう、思てましたのに」 「ダメですよ、なつきにはもう暫く会長さんがついてて貰わないと」 「そやろか」 「そうです」
ふん、と拳を握ったあと、彼女はしまった、と自分の額を打った。
「次、移動教室だった…!あ、それじゃ、私はこれで失礼します!」 「ええ、ほな、あんじょうきばりよし。鴇羽さん」 「はーい!なつきのこと、お願いしますね会長さん!」
すっかり元通りの呼び方を残して、彼女は慌しく校舎へと駆けていく。
――……なつきには、うちが居ぃひんと…か。
甘いような苦いような言葉。 その意味が持つ呪縛めいたものに縋って。 あの子を自分の手の中に収めようと思てた時期もあった。 けれど。
――それでは、あかんやろうなあ……。
あの子が本来持っていた、素直で真っ直ぐな心が。 要らん荷物を背負う事でまた。 その歩く道が狭められたり歪んだりする事にでもなったら。
――それだけは、うち、避けたい思てるんよ。
そして、他でもない自分の存在が。 あの子のそんな純粋な心根を損なうものであるのなら。
――もう、これ以上、側におったらあかんよね……。
それは、酷く切ない痛みを伴う決意で。 でも、この先いずれは、選ばなくてはいけないもので。
――あの子、うちのこと、好き、言うてくれはった。
同じではなくても。 好きだと、一番大切だと。 その命を掛けて、自分に伝えてくれた。
――それだけで、ええ。
胸の奥を刺す、どうしようもない痛みを。 多分、生涯抱える事になったとしても。 あの時のあの子の笑顔を、口付けを。 思い出せる自分で居られる間は。
――うちは、大丈夫やから……。
だから。 久し振りに会うことになる、あの子の顔を思い浮かべ。 口の端に苦い笑みを浮かべながら。 何かを振り切るように、顔を上げる。
見上げた空は、そろそろと、夕暮れの色を集めて。 赤銅の色に染まりつつあった。
――うちは、もう、間違いたくはないんよ。
あの子の笑顔が、たとえ自分と離れた場所で花開くとしても。 それでも良い。 そう思い定めて。 寮へ続く裏道へと、足を踏み出していた。
― 了 ―
制限時間一時間的リハビリ小話(何)。
多分、後日訂正するかと。 若干手直しして、Web拍手に仕込んでみました(え)。 某友人(をを、この表現も久々やなあ/笑)、チェック、感謝。
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