一橋的雑記所
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2005年12月30日(金) |
だから折角の休日早朝から何してんだか己…(伏し目)。※ホントは070801. |
流石に一時間では無理でした……(何)。 昨日のとは裏表と言ふことで一つ……(何々)。
どんなに拒んでも、冷たくあしらっても。 動じないどころか、いつも笑顔で。 気が付けばそこに、佇んでいるから。
幾ら出席日数が気になったとはいえ出てくるのじゃなかったと。 うんざりするくらいかったるかった午前の授業を思い出しながら、中庭に出る。 授業以上に煩くてイラつく昼休みの教室に居場所なんてある訳もなく。 購買で買ったパンやコーヒーをぶら下げていっそこのまま帰ってしまおうかなどと思っていた時だった。
「なつきさん」
他の誰とも違う、不思議なイントネーションを纏った声が背中に投げ掛けられて思わず足を止める。 この所、何を思ってかやたらと声を掛けてくる、学園内でも評判の優等生の笑顔がそこにあって。 思わず振り返ってしまった事を後悔する。即座に顔を逸らし、構わず歩き出したけれども。
「なんや、お久し振りどすなあ。今からお昼?」
などと言って駆け寄ってくる。 教室に居た頃から腹の底に積もり始めていた苛立ちを一気に炸裂しそうになった。しかし。
「……お前には、関係ない」
それでは、ただの八つ当たりだ。そう思って何とか堪えると、出来るだけ顔をそちらへ向けないよう、ただ前を見る。
「嫌やわあ。そないにいけず、言わんと」 「い……?」
聞き覚えの無い単語に思わず振り返ってしまうと、何が可笑しいのだかあいつは小さな笑い声を上げていた。
「わ、笑うな!」 「ああ、堪忍。……もしお昼まだどしたら、ご一緒しようか、思いまして」 「……なに?」
何を言い出すのか、と思って視線を巡らすと、あいつの手にはどうやらお弁当の包みらしいものがあった。 変わり者ではあるけれども何故か学園の人気者らしく、校内で見かけるたびに、2、3人ではきかない取り巻き連中を従えている癖に。
「それとも、これから何かご用でも?」
こうやって不意に声を掛けて来る時は、いつでも一人で。 一体何の気まぐれなのかと思って何か言い返そうとして。 目の前の、ごく自然な、それでいてとても楽しそうな笑顔を見つめた途端に、言葉を失う。 何をどう叫べば、こんな風に真っ直ぐに笑う相手を。 これまで誰にも踏み込ませたことの無いこの距離感の中から追い出せるというのだろう。 躊躇いが勝った唇を強く引き結んだ時、あいつの笑顔が一層深くなった。
「……変な奴だ」
何が嬉しいのだろう。何だか一気にばかばかしくなって溜息と共に目を逸らし、いつの間にか立ち止まってしまった足を改めて踏み出す。
「そうどすか?」
相変らず微塵も堪えた風も無いあいつの声は本当に不思議そうで。
「変だ」
更にばかばかしい気分になって、吐き捨てた。
「何でわざわざ私になんか声を掛ける。他にいくらでも居るだろうに」 「あら。うちにとってなつきさんは、なんか、何かと違いますえ?」 「な……っ」
おっとりと返ってきた言葉が、余りに自然だったから。 驚いて、それから、何故か胸が詰まるような気分になる。
「逢えたら嬉しいし、出来れば一緒に居てたいなあ思うお人です」 「だから、それが変だと言うんだ!」
まずい、と思った時には、激高するように叫んでいた。 振り返ると思いのほか近い場所に、あいつの酷く静かな笑顔があって。 その事が、一瞬覚えた後悔を押し流して、この胸の奥に仕舞いこんでいた感情の扉をこじ開けた、そんな気がした。
「お前に私の何が分かる? 私の何を見てそんな事を簡単に口にする?」
いつの間にか、気が付けばそこに居て。 付きまとい、笑顔を振り撒き。 優しい言葉を投げ掛けて。
そう。 いつもあいつを取り巻く連中のように。 いつか、あいつに引き寄せられ惹きつけられて、その中の一人に加えられる為なら。 要らない、そんな気持ちなら要らない。 笑顔、言葉、優しさ。 目に見えるものが全てだと思えた頃ならば、それも少しは暖かなものとして受け止められたろう。 けれども、そんなものはもう、信じられない。 信じてはいない、そんな自分の何を見て。 何を分かって。
「何のつもりで私に付きまとうんだ! 私は……!」
――「私は」……?
何だというのだ。 そんなもの。 今この目の前に居る、風変わりな、誰からも好かれる、愛される存在である、あいつには何の関係も無い事で。 その事で、罵倒される理由だって、少しもないのに。
そう思い至った瞬間に、頭に上っていた熱が一気に下がる気がして。 唇を噛み締め、目を伏せる。
「なつきさん……」
静かな声が呼ぶ。 これまで、何度となくその声に名を呼ばれたけれども。 独特の抑揚で、何処か楽しげに呼ばれる事がもしかしたら、嫌いではなかったかもしれないけれども。 それとは全然違う、穏やかで、静かな声で呼ばれて。 頭だけではなく、胸の中の熱も一気に下がる気がした。
でもいい。 もういい。 これで、いい。
「……なつきさんは、優しい子ぉどすなあ」
しかし、溜息のような吐息と共に続けられた言葉はいつもと同じ、いやそれ以上に優しくて。 思わず顔を上げると。 そこにも、いつもと同じ、いやそれ以上に優しげに、深い笑みを湛えた顔があって。
「確かにうちは、なつきさんの事、なぁんも知りません。けど、なつきさんの事、知りたいとは思うてます。 見てたいと思うてます」
ゆっくりと紡がれる言葉の意味よりも。 その声の響きの懐かしさに、捕らわれる。
「うちは……なつきさんと友だちになりたいんどす。それだけや、あきませんやろか?」
微笑みながら、緩く首を傾げて。 言葉を切って真っ直ぐな眼差しを向けてくる。
どうして、とか。 なんで、とか。 浮ぶ言葉や気持ちは沢山あって。 それでも、そのどれも今のこの笑顔にぶつけるには全然、的外れな気がして。 その中に、ほんの少し。 泣きたくなるような、切ないようなものもあって。
「……やっぱりお前は、変な奴だ」
言い捨てて、背を向ける。 そうだ、分かる訳がない。 あいつの気持ちが、こんな風に少しも分からないのと同じ。 あいつにも、この気持ちが分かる訳が。 でも、そう思う事が少しも、嫌ではないことに、酷く戸惑っていた。
「なら、うちとなつきさんは友だち、いう事で良いんどすな?」
打って変わってあっけらかんと明るい声が背中に届いて。 何でそうなる、と思わないでもなかったけれども。
「……勝手にしろ」
そう返していた。 そうだ、勝手にすればいい。 見て居たいのなら、側に居たいのなら、と、半ば自棄に近い気分でそう思う。
「友だち、いう事やったら、名前、呼び捨てにしてもええ?」 「な……」
いきなり砕けたその口調に振り返ろうとして。 不意に背中に暖かいものを感じて硬直する。
「……っっておいっ!」
肩に回された腕に引き寄せられる。
「うちとなつきは、友だちやねんから」
耳元でそっと囁かれる。 こんなに間近な場所で誰かの声を聴いたのは、いつ以来だろう。 それも、こんなに優しい声音を聴いたのは。 瞬間、かぁっと頭に上った血が頬を走った。
「分かった、分かったから離れろ……!」
いややせっかくやもん、などと嘯く声に。 強引だけれども、人を傷つけない強さで回された腕に。 この先どれだけ振り回される事になるのだろうかと。 そんな予感を仄かに感じながら。
私とあいつの日々は、始まった。
やっぱり。 片恋風味……?(伏し目)
てか。 擦れ違っても構わないといふか。 擦れ違うものぢゃないのかとか。 そんな感じで、ええとええと……(逸らし目)。
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