一橋的雑記所
目次&月別まとめ読み|過去|未来
2006年01月19日(木) |
ヤヴァい所を目指したけれども無理でした(何が)。※ホントは070214. |
ヴァレンタインに全く以って。 相応しくない断片一つ(ヲイ)。
「桜の花、咲くころ」に寄せて。
気が狂いそうだった。
――うちが倒れたら、あの子も消える。
照る月。 禍々しい赤い星。 足元に落ちる深い影の中に潜む、己の思いの深さ暗さに。 絶望的な目眩を覚えた。 この辺りを跋扈する異形のモノたちを屠る為だけにしては。 身に余るほどの力が溢れ返るこの身を自ら抱き締めて。 鎌首を擡げる「我が子」を見上げて。 何度と無く感じていた違和感の正体が。 己の足元から伸びる黒々とした影の中に見え隠れする。
他愛の無い冗談の延長線上にある触れ合いにすら。 頬を耳元を首筋を、これ以上ない位赤く染めて。 抗う術を見せるあの子の仕草の中に。 不器用な幼さを見出して微笑ましく思う反面。 酷いもどかしさを覚え始めたのはいつの事だったろう。
丈成す黒髪。 真っ直ぐに伸びた背中と張り詰めた肩の線。 険しく顰められながら時折、幼い曲線を描いて緩む眉。 長い睫の影から挑戦的な光を放つ、深い碧の瞳。 吐き出せない言葉をどれ程飲み込んで来たのかすら定かではない。 強く引き結ばれた、淡い桜色の唇。 その全てに目を、心を奪われた。
欲しいと。 生まれてこの方口にした事のない言葉が零れ落ちそうになるのを。 危うい所で、押し留めるしか無かった。 触れれば分かる、ひやりとした孤独で鋭敏な彼女は。 決して誰かの掌の上で踊る事を良しとはしない。 誰かの腕に縛められて得る安らぎを、必要とはしない……今は、まだ。 でもいつかは、もしかしたら……。
――いつか、なんてもう、来ない。
ぞくりと、背筋を這い登ってくる冷ややかな痛み。 青白い月の光が重みを伴うかのように肩を押し。 思わずその場に崩れ落ちる。
――最後の一人を決するまで、戦い合うのがHiMEの宿命ならば。
あの子は。 生き残れるだろうか。 稚い、儚い強さを支える想いが。 余りにも純粋で、余りにも幼い、あの子は。
溢れ出す。 あの子の、声が、笑顔が、孤独が。 冴え冴えと、この胸を抉るように突き通す。
「……なつき……」
愛しさに切り裂かれた胸の痛みを吐き出すように。 あの子の名を呟いた声はまるで、血に塗れたかのような熱を帯びていた。
「うちは……」
あの子が、欲しい。 他には、なんも要らん。
此れまで。 自分自身をも欺いて表出させる事の無かった想いが。 血の色をした言葉を纏った瞬間。 月の光に照らし出された異形のわが子が。 地を揺るがせるような激しい雄叫びを上げた。
あの子は。 うちがまもってみせます。
全ての運命を操る禍つ星が迫る月の夜を見上げる。 あの星を砕き落としてでも。
うちは。 あの子を。 手に入れる。
― 了 ―
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