彼の言葉に言い返す言葉を、私は持たない。 愛の定義の答えは、私からは永遠に出ないからだ。 何故なら、彼の言ったことは、それはそれで真実だから。
人は一人では生きて行けないけれど、愛が無くても 生きて行く事だけなら、可能だ。だけど、それだけじゃ 淋しいから、ほとんどの人がその不安を埋めるように、 寄りそって暮らしている。それも、自然のひとつ。
私は彼を好きだと思うけど、時々、そう言って「本当の事」 を追求する彼は、もしかしたら私を「好き」では無いかも知れない と、不安に思う。真実とか、真理を追い求めがちな人は、 ただ理由もなくそこにある“もの”にはなかなか気付かない。
そして、ただ胸にある感情や気持ちの高鳴りに、理由をつけて 安心しようとする。それは、まるで病名を知って安心する 病人のようだと、私は思う。自分がおかしい理由を知りたがる。
感情に、名前をつけるのは、簡単だ。 だけど逆は、難しい。
ただそこにある形無い物を、名前というカテゴリーで区分けして 行く作業は、難解な上に、危険。
私は、ただ、ここにある気持ちを彼に伝えたいだけなのだ。 それが色褪せないうちに相手に伝えたくて、だけどそれが難しいから、 愛という名の言葉を使って、気持ちを語る。それは、嘘ではないけど、 純度ははるかに低くなる。だけどそれが人間の限界だと思う。
だから余計にむずがゆいのかも知れない。
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