童話の中で、とても好きだった話。 いまでも好き。 人魚姫は、人を好きになって、好きで好きで仕方が無い。 自分の声と引き換えに魔女にもらった脚は、 歩くたびにナイフで突き刺されたように痛む。 それでも王子様に気持ちを伝えたいと想った彼女は、 痛む脚で、唄の代わりに舞を踊る。
人魚には涙が無い。 だから、泣けない。涙も出せずに悲しみをこらえる時は、 人間の数倍は辛くて苦しいのだそうだ。
王子様の愛が自分に向かない事を知った彼女は、王子様の 肝を食す事で、人魚に還ることが出来る。だけど、好きな人は殺せない。
最期は海に命を返すように、その身を投げるのだけど 彼女の躰は、海の泡に消えて、その泡の欠片は、空に昇って 空気の精になる。神様の奇跡なんだ。
空気の精になって、彼女は生まれて初めて涙を流すのだけど その時の声が、かつての何倍も澄んだ声で空気に溶ける。
最期は、海の泡になって終わりだと思っている人が多いんだけど、 彼女は、空気の精の仕事を全うした後は天国に昇るんだ。
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