ケイケイの映画日記
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2025年08月24日(日) 「バレリーナ:The World of John Wick」




「ジョン・ウィック」が全く未見でも楽しめました。所々、「?」な場面がありましたが、予習して臨めば大丈夫だと思います。バッタバッタ人が死ぬのに、鑑賞後は、謎の爽快感いっぱいです(笑)。監督はレン・ワイズマン。

子供の頃、両親と死に別れたイヴ(アナ・デ・アルマス)。ジョン・ウィックを輩出した犯罪組織「ルスカ・ロマ」で成長したイヴは、様々な訓練を受けて、初仕事を無事こなします。組織の中で頭角を現すイヴですが、父親を殺した暗殺教団を見つけ、ルスカ・ロマの指導者であるディレクター(アンジェリカ・ヒューストン)の命に背き、単身教団へと向かい、主宰(ガブリエル・バーン)に戦いを挑みます。

と、いった筋書きで、それ以上でも以下でも無し。でもすんごい面白い!とにかく全編これアクションの山場ばっかりでね、合間合間にクスっと笑うユーモアや、泣きが入るわけ。その塩梅が、良いスパイスになっています。

新米の傭兵なんですから、危機また危機の連続で、あわや!というシーンが続出でね、すごくハラハラします。女性だからといって、相手の男も容赦してくれません。こっちだって相手の命を取りに行っているわけで、そりゃ向うも本気になるわな。ぼっこぼこに殴られ蹴られしながらも、果敢に立ち向かうイヴが頼もしい。この手加減の無さが清々しく、私的にものすごく気に入りました。

あれ?えっ?そうなの?的な、ご都合主義のツッコミも随所にありますが、基本の親の仇うちは全くぶれず、スルーできます。自分と似た境遇の少女が出てきたり、韓流ドラマチックな展開が出てきたりですが、全然掘り下げない(笑)。でもお安い上辺だけウェットな展開が、アクションを主体のこの作品には似つかわしく、プロットはそれなりに作品に溶け込んでいました。

素手、拳銃、日本刀に爆弾。火炎放射器まで!多彩な武器がアクションに花を添えます。特に私が気に入ったのは、火炎放射器!本当にアナが使ったんだとか。ゴジラかと思いました(笑)。トムちんの新恋人と話題のアナですが、ラテン系の元カノはペネロペ・クルスもいたなと思い出しましたが、このアクションの数々を観ると、アナがトムちんと気が合うのは、想像に難くないです。

とにかくアナが素晴らしい!綺麗だわチャーミングだわ、強いわ華やかだわで、満点の出来。ラテン系の強みを生かし、気の強さと情の濃さを漂わせているのもいいです。キアヌはジョン・ウィックの役で、少し登場。うーん、久々に観たけど、なんか老けたね。ノーマン・リーダースが、渋さで老いをカバーしていたのに対して、キアヌはブラピやトムちん、レオなど、同輩くらいのビックネームが、まだまだ華やかなのに対して、少し寂しい感じがしました。ジョン・ウィックがそういう役柄なの?これから観なくては。

びっくりしたのは、アンジェリカ・ヒューストン。やっぱり久々に観たけど、凄い貫禄。年齢も性別も超越して、人間ではない何か、的なくらい、違う生き物に見えました。不死かもなと思う程、それくらい凄い。これはこれで値打ちだね。

続編作られそうなラストでしたが、37歳のアナ、あと10年くらいは出来そうです。この作品は、彼女のデキに命運がかかっていたと思うので、大成功かと思います。





2025年08月09日(土) 「あのこと」(Amazonプライム)




衝撃でした。妊娠の週を知らせる字幕が出てきますが、それに連れ、私の感情も変化していきました。今から60数年前。女性には人権なんか無かったんだと、思い知らされます。監督はオードレイ・ディヴァン。2021年のヴェネチア映画祭金獅子賞受賞作。

1960年代の中絶は違法だった時代のフランス。前途洋々だった大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は、妊娠します。作品は彼女が堕胎するまでの数週間を追って、進んで行きます。ただこれだけです。ドラマも何もなく、焦燥しているアンヌを映すだけ。それなのに、女性は女性であるだけで罪深いと言われているようで、私を暗澹たる気持ちにさせます。

労働者階級の生まれのアンヌは、容姿端麗でクレバーで、ちょっと小生意気。寮の友人もいて、男性にもモテる。それが彼女の妊娠を知ると、一変します。私も当初は、中絶ばかりに気が行き、反省やお腹の子に憐れみを持たない彼女に、疑問がありました。しかし、映画進むに連れ、友人に罵倒されたり距離を置かれるアンヌを観て、未婚で妊娠するのは、そんなに悪い事なのだろうか?と思い始めます。彼女は強盗をしたのか、人を殺したのか?未婚の妊娠は、そんなに大罪なのか?

何とかしようと焦る彼女は、自分で中絶手術を試みるも失敗。女性器を傷つけただけです。恐ろしい。かつてはこうやって、命を落としたり不妊になった女性もいたでしょう。お腹の子の父親とは、まだ付き合い始めたばかり。「まだケリがついていなかったの?」と言う彼氏に驚愕。あんたの子だよ。アンヌの心身のケアは我関せず、ひたすら一緒に遊ぶ友人の機嫌を損ねる事を心配する。全くの他人事です。

そうなんだ、そうなんだよ。一緒に快楽を共にするも、妊娠・出産の重荷を背負うのは女性だけなんだ。それは法整備の整った、今も変わらないです。中絶すると非難され、出産するとキャリアの停滞。この時代なら、停滞どころかキャリアの終焉です。中絶しか選択肢が無いのです。

大昔、1970年代に中ピ連という活動をしていた女性たちがいました。奇天烈な団体で、仇花のように短期間で散ってしまいましたが、確か主旨は、ピルの解禁だったと記憶しています。バイアグラは僅か数ヶ月で日本では認可されたのに、ピルの解禁は、確か十数年かかったと思います。女性だけに貞操観念を植え付け、男性は薬を用いてもセックスさせる。甚だ疑問です。やり方は拙かったのでしょうが、この作品を観て、中ピ連の主旨は、間違ってはいなかったと思いました。

男子の友人から、闇で中絶をしてくれる女性(アナ・ムグラリス)を紹介して貰うも、料金が高額。自分に期待している親には言えず、私物を売り、果ては売春してお金を用意するアンヌ。自分の人生が係っているのです。しかし、一回目で子供は下りず、命の危険を冒して二度目の手術。子供を出産のような形で産み落とす場面が苛烈。女性器の間から、へその緒が見えます。本当に観ていて辛い。

寮の友人に頼んでへその緒を切って貰うも、大量出血のアンヌ。誰にも言わないでと止めるのを振り切り、友人は医者を手配します。胎盤が残っていたのではないかと思いました。命を取り留めた後、作品は安堵の表情を浮かべて、試験を受けるアンヌを映して終わります。

でも私は思う。ここからがこの作品の訴えたい事では、ないかしら?あの苛烈な数週間を過ごしたアンヌは、この辛い記憶を一生抱えて生きていくのです。その事を知って欲しくて、過酷なアンヌを映したのではないでしょうか?そこに子供の父親はいない。一人で罪を背負い、一人で罰を受けるのです。とても理不尽な事だと思います。そこまで感じてこそ、この作品の感想が完結するのだと思う。

原作者のアニー・エルノーは、ほとんどが自分の自伝小説だそう。「事件」のタイトルで書かれた、この作品の原作も、そうなのでしょう。中絶が正か否かは、誰が考えても否定される事です。しかしその選択を余儀なくされたとして、女性が他者から非難される筋合いはないと、私は思います。世の中はまだまだ若い女性たちに冷たいのだと、今から60年前を描いた作品を観て、感じました。私たちのような、子供を産み育て、今は余生を送る者こそ、彼女たちの味方にならなくてはと、痛感しています。







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