大好きだった友人の命日。もう・・四年の歳月が流れたんだなと。 お墓参りに行けなかったので今しんみりと彼を偲んでいるところ。
初めて出版した本が遺作となり遺品となった。 海の底の写真とユーモラスなエッセィ。人柄が滲み出ている優しい言葉の数々。
彼の家は国道沿いにあった。仕事帰りにふらりとよく遊びに寄ったりした。 ほんの10分くらい。とりとめもない話ばかりするのだけど心がとても和む時間。
「おお!ええところに来た コーヒー淹れてくれや」としんどそうに寝そべっている。 小さな鍋でお湯を沸かす。いつもネスカフェで砂糖もミルクも要らなくて。
一応男なんだけど・・警戒することはなかった。気の合うおじさんだけど友達みたいに。 親近感がいっぱいあふれてくる。今思えば・・ちょっと癒し系のおじさんだったかも。
寝そべって何を苦しんでいるのかと言えば、締め切り直前の原稿を書いていた。 結構有名な週刊誌に毎週エッセィを連載していたりして。彼もちょっと有名人。
「書けんぞ〜書けんぞ〜助けてくれや」髪の毛を掻き毟りながら縋るように私を見上げる。 その悶える姿が私は好きだった。きっと書き上げるんだからと信じていればこそ。
帰るとき貝殻をもらったこともある。海の底で見つけた珍しい貝だとか。 だからほんとうは誰にもやりたくなさそうだった。でもしぶとくねだってみる。 「これちょうだい」と言ったときの彼の顔が忘れられない。 「それは・・それだけは」と言いたそうにしているのに言わないのだから。
私は勝ち誇った思いでそれを持ち帰って来た。いひん・・それも遺品になったけれど。 どうしても欲しかったわけではなかった。のに・・なぜかその時それを放せなかった。 大切な貝殻だったんだなと後で思った。でも返しには行かなかった。もう私のものだったから。
彼はあっけなく死んだ。四年前の6月23日午後11時4分に。 亡くなる二日前に病院へ行った。もう意識はないんだと言われたけど・・。 彼の手は冷たかった。もう骨のように細くて。 名を呼びながらその細い手を握り締める。その時彼が呻き声を上げたのだった。 「うう・・うう・・うう・・」と何度も。何かを話そうとしていると思った。 意識がないなんて嘘だと思って。私がここにいるのが分かっているんだと思って。
「死にたくないぞ〜死にたくないぞ〜助けてくれや・・」
私は泣きながら彼と別れた。 どうしようも出来ないことがこんなに重く圧し掛かっている。 なぜ彼が・・いなくならなければいけないのか・・その理由が知りたかった。
彼は白く粉になり海へ流れていった。そこが彼の住処となって。 そして決していなくなったわけではない。今もここにいる。確かにここに。 もう決して苦しむことはない。満面の笑顔で話し掛けてくるのだった。
海が笑った・・・今日という日
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