夕暮れ時の月がとても綺麗だった。夕焼けと向かい合うようにしてくっきり。 まんまるでその紅が不思議な色合いで。ちょっと切ないような月でした・・。
ちょうどその時ラジオから・・ミスチルの『くるみ』が流れ始めて 思わず・・おお・・と声をあげ。スピードを落としてゆっくり帰る川辺の道。 久々のロマンティックなり。なぜにわらわはおとめではないのかと・・ふと。 帰るべき家を思った。
家に帰れば灯りがともりぬくぬくと光さす玄関のあたり。 サチコの黒いクルマにはっとしてほっとするひと時なり。 そしてドアには『メリークリスマス』だもんね。感動するわらわは母なり。
ふんふんと鼻歌で主婦になる。鶏ゴボウに鯵の塩焼きとか作り。 どっぷりと所帯に浸かる。もはや・・あの月さえも遠くなりにけり。
汚れた食器を洗いながら・・あのひとを想う。 どうしてあのひとはあんなふうに泣いたのだろうと・・・。 スポンジをぎゅっと握り締めてガラスコップの奥のほうをこれでもか。 これでもかと洗いながら涙がこぼれそうになるのであった。
かくかくしかじか・・。
「昨夜はひどくうなされていて参ったよ」と夫君が言う。 はっ?うそ?と我が身を疑う。ぐっすり眠った。それは確かにそうだったのに。 「何度も起こしたのに起きないから首締めて殺そうかと思ったぞ!」と笑う。
漠然と・・それを思い出す。人影が・・見えた。あれは誰だったんだろう?と。 何かを言いたそうにしてじっと私を見つめていたひとが・・確かにいた。 名前を呼んだような気がしたけど・・それに答える声がなかったのだった。
夢のなか・・うっすらと靄が掛かったようなその白くてぼんやりとした空間。 それはあのひとではなかった。かたちが違っていた。気配も違っていた。 じゃあ・・誰?
私は・・ガラスコップを割りたくなる。指を切ってしまいたい衝動に駆られる。
その狂ったような迷いを。その切なさが波のように押し寄せて来て。 いったいどこに流れていけばいいのかと・・・そればかりに苦しみ。
明日のためのお米を研ぐ。タイマーのスイッチを入れて
台所の明かりを消した・・。
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