職場の庭には。ねむの木とヤマモモの木が隣り合わせにあって。 ねむの木は。ピンクの可愛らしい花を。 ヤマモモは。ちょっと酸っぱい赤い実を。
この季節がとても好き。梅雨空でもなんて晴れやかな二つの木。
仕事中に。すごく息苦しくなったり、睡魔に負けそうになった時。 ほんの少しのあいだだけ。私は外に出て深呼吸する。 この二つの木の下に立っているだけで。生き返ったような気分になる。
今日は。はっとして立ち竦んでしまった。 赤いとんぼがいっぱい飛んでいた。 いくつもいくつも。二つの木に群がるようにそれが丸く輪を描くように。
事務所に帰って。オババという名の母に報告すると。 それは『お日和とんぼ』だと言って。 雨が・・雨がいっぱい降る知らせだと言う。
どうして?お日和って?晴れるんじゃないの?
ずっと昔に亡くなった曾祖母ちゃんが教えてくれたそうだ。 だから間違いないと。母は子供みたいにそれを信じて言い張る。
午後・・今にも雨が降りそうだった空から。薄っすらと柔かな陽射しが。 あれれ?って可笑しくなる。雨どころか少し青空が見え始めた。
そんなはずはない。曾祖母ちゃんが言ったんだから。 ちょっと自信が崩れそうになるオババ。
明日ね。明日はきっと大雨だね。私は笑いながらそう言った。
そんな午後。お日和とんぼは。あんなにいっぱい飛んでいたのに。 どこにも姿が見えなくなって。
ねむの木とヤマモモの木は。思いがけない光のなかで。 その花とその実を精一杯に。風に身を任せ揺れながら。
雨ならば雨でもいいじゃないか・・と言っているようだった。
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