曇り日。山里ではにわか雨が降る。
田んぼの畦道に紅い彼岸花が咲き始めた。
稲はすでに刈られているが田んぼとのコントラストがなんとも云えない。
昔からモグラ除けとして畔に植えられていたそうだ。
もしかしたら百年近くも同じ場所で咲いているのかもしれなかった。
職場の庭では柿の実が色づき始めている。
葉の紅葉も見られ秋らしい風景である。
ゆっくりと少しずつではあるが季節が移り変わろうとしているようだ。
暑さ寒さも彼岸までと云うが彼岸の入りも近くなった。

仕事を少し早めに終えさせてもらっていつもの内科へ。
薬の処方だけしてもらって次は母の施設に向かった。
午前中にケアマネさんから電話があったのだ。
医師からの伝言でなるべく早く面会に来るようにと言われた。
それだけ母の状態が良くないと云うことなのだろう。
もしかしたら今日が最後になるかもしれないと思った。
先日の母からの電話で少し安心していたのだけれど
母がかなり無理をしていたことを知った。
母なりに心配をかけてはいけないと思ったのだろう。
お口だけは元気なんですよと施設のスタッフさんが口々に言う。
顔色はとても良く決してやつれているようには見えなかったが
あまり長く話すと息が荒くなりしんどそうな様子を見せる。
心不全と腎不全のダブルパンチなのだそうだ。
どちらの治療ももう限界に達しているらしい。
言い換えればもう手の施しようがないことに等しい。
「最期の看取り」医師からはその相談もあった。
私は出来る限り苦しまずに安らかな最期を望んでいる。
けれども義父はぎりぎりまでも延命治療を望んでいるのだった。
明日、義父に詳しいことを話さねばならないがなんとも気が重い。
最終的な決断は娘さんがと医師に言われたことも話さねばならない。
「ばいばい、またね」ベッドから起き上がった母が手を振った。
私はその手に握手をして笑顔で母の元を去って行った。
必死の思いで最後を否定している。きっときっとまだ時間がある。
握手をした時の母の手のぬくもりがなんだか愛そのものに思えた。
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