雨上がりの爽やかな晴天。気温も高くなり春の陽気となった。
昨夜の雨のせいだろうか対岸の山桜が少し散ったようだ。
僅かに残る薄桃色の花が健気に咲いているのが見えた。
庭先の桜草はずいぶんと長く咲いており心を和ませてくれる。
雨に打たれて倒れていたのをそっと手を添えて直す。
花として生まれたからには生きたくてならないのだ。
今朝も心を弾ませながら「大吉」へと向かう。
バーバリーのコート、年代物のカメラと腕時計、夫の勲章等を持参する。
勲章は夫が消防団に所属していた時に頂いた物で6個もあった。
「そんなもんが売れるはずないじゃないか」と夫は笑い飛ばす。
査定の間どきどきわくわくしていたが所詮捕らぬ狸の皮算用である。
バーバリーのコートが僅か5百円と聞き衝撃が走った。
けれども箪笥の肥やしである。捨てるよりもずっと良いのだろう。
勲章は諦めようと思っていたが何と買い取ってくれるとのこと。
総額で2千5百円であったが夕食代にはなりそうである。
「まあこんなもんですね」査定員の青年と笑い合い何と愉快であった。
昼食に下田にあるお好み焼き屋「どんぐり村」に予約した。
テイクアウトで「オム焼きそば」と「豚玉」を注文する。
初めての来店であったが先日ユーチューブで見て気になっていたのだ。
店主の何と愛想の良いこと、とても朗らかで明るい人であった。
代金は何と2千5百円で笑いが止まらない。
今日の臨時収入はそうしてお腹に収まった。
とても美味しかったのでリピート間違いなしである。
しかしもう売る物は何もない。それでもまた食べなくてはならない。
お腹が破裂しそうなくらい満腹になりもう寝るしかなかった。
3時頃に一度目を覚ましたがまた寝てしまいとうとう4時半である。
洗濯物を畳み終えたら夕食の支度が待っていた。
娘が出掛けており帰宅が遅かったが「すき焼き」なので大丈夫。
5時半には煮えて夫の晩酌が始まっていた。
夕食後の煙草を吸いながら対岸の山桜を眺めていた。
日に日に散ってしまうだろう。何とも切ないものである。
この四万十のほとりに嫁いでもう半世紀が近くなったが
今年ほど山桜に心が惹かれたことはなかった。
老いてこそのゆとりが出来たのかもしれないが
今まで気づこうともしなかった歳月が惜しくてならない。
やがて最後の春が来るが私は一本の山桜で在りたい。
山桜
対岸の山を仄かに彩る その薄桃色に心を委ねた
大河はゆったりと流れ 川船が遡って行けば 水しぶきにはっとする
半世紀近い歳月が流れ 終の棲家に訪れた春 子は父になり母になった
桜であることに違いない 辺りの緑はいっそう濃く 若葉が風に匂う頃だった
咲いたからには貫こう 誇らしく生きていこう
やがて散ってしまっても また訪れる春がきっとある
空が近くなり雲が流れる 風に吹かれながら咲いた 一本の桜木である
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