BERSERK−スケリグ島まで何マイル?-
真面目な文から馬鹿げたモノまでごっちゃになって置いてあります。すみません(--;) 。

2004年07月25日(日) 薔薇と百合の花の下で

 まだ迷宮に居た頃の事。幼かった私がファルネーゼ様に庭に咲いた薔薇をつんで差し上げた事があった。深紅の色の香り高い花は、少しはファルネーゼ様のお気に召すかと思ったのだ。庭師に頼んで花束を作ってもらった。細心の注意をはらって棘を切り落として。それをファルネーゼ様のもとへ持っていくと、ファルネーゼ様はたいして面白くもなさそうに薔薇の花束を受け取った。

「つっ、痛。セルピコ、棘の付いた薔薇を私にどうしようというの?」

 間が悪いことに、取り忘れた薔薇の棘がファルネーゼ様の指を傷つけた。ファルネーゼ様はその薔薇の花びらをむしり取り足蹴にした。私も棘の付いた薔薇の茎で頬を打たれた。血の匂いが薔薇の香気と混じり合った事を憶えている。
 ファルネーゼ様に使えてからの私は生傷が絶えず、今日の出来事もそんなものだろうと思っていた。
 使用人仲間には、ファルネーゼ様の暴君ぶりに付き合う私の涙ぐましい献身ぶりを笑う者もいた。

「お綺麗なお嬢様にかまわれるのが嬉しいんだろうさ」

 当時は意味がわからなかったが、後にその言葉の意味を理解する事になる。

 心外だった。私にとっていつまでも苦痛は苦痛でしかなく、暗闇は暗闇でしかなく、豪壮な邸であっても凍える冷たさは冷たさでしかなかったからだ。
 ただ私は、物心付いた時から暗闇と冷たさしか知る事が無く、自分にとってどんな状態が幸せなのか解らなくなっていた。寒さに凍え、常に空腹をおぼえ、あの母との陰鬱な日々よりはマシなだけ。そして空腹が満たされる事になっても、ヴァンディミオンの巨大な邸は、やはり冷たく子供を暖める場所ではなかった。
 私の行く先々は、いつも冷気に満ちている。
 ファルネーゼ様もまた凍え怯えていた。
 冷たく凍えた者同士が抱き合っても暖め合う事は出来ない。
 ファルネーゼ様の求めを拒んだあの日、兄妹の軛と共に、何より冷たく凍えた者同士である事を私は感じていたのかもしれない。


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