仕事を終えて、会社帰り。 顔のない人々が歩く雑踏の中で、 俯いて、口に掌をあて、声を殺して、 まだ、陽の落ちぬ、夜の入口に立つ街中で、 泣いてしまった。 ポロポロと涙をこぼした。
俺には見える。見える気がする。 健気に、ただ健気に、 悪夢のようなすべての自分の愛や運命を 受け容れようとしている姿を。
なぜ、そんなことを、引き受けなければならない? なぜ、そんなことを、あなたが引き受けなければならない?? 涙がこぼれる。ポロポロ落ちる。
何とかならないものなのだろうか? いや、何とかしようと思う心が傲慢なのか?
ほっときゃいいんだ、ほっときゃいいんだ。 いや、何かできる事があるかもしれないだろ?
胸が軋む。心が揺れる。 どうすればいい?
『雑踏の中にも孤独がある』
中学時代の恩師が、在学中に俺に送った言葉。 何であの時の言葉が今ここで蘇ったのだろう?
でも、今、その雑踏の中に、俺は居た。
〇 愛について / スガ シカオ
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