2005年02月15日(火) 電波バレンタイン
ええと。ここから読む人。
まず、前日の日記読め(何)。
納得してからこれを読め(何)。
電波小説。
しかし電波度はあすか一人称ほどではないと思われる。
書き方は春人一人称と一緒なので、むしろ春人も電波である(何)。
では、以下……、その……、
軽蔑されても、まぁ、|Д`)以上の軽蔑は起こらないでしょう、なので、ヘイキ。ワタシ、ツヨイコダカラ。
彼らの2.14事情
人生とはままならないものである。
別に常日頃からそう思っているわけではない。私から見ればそんな奴、きっと鬱だ、間違いない。ただ、こういう日だけは感じずにいられない。こういう日。例えば。クリスマス。近くで行われる花火大会。……考えるのが面倒くさくなってきたので、割愛。
いや、今、一番言いたいのは、そう。
バレンタイン。
この日ほどなぜ自分が洋菓子屋で働いているのか恨めしく思ったことはない。――とクリスマスにも思った気がするが、気のせいということにしておこう。群がる奴等がほとんど義理チョコ目当てだと解っていてもだ。恨めしい。私には義理をあげる相手もいないのである。鬱とはこのことか。
しかも売れ残りのチョコをもらって、退屈だからと私はそこからさらに手作りチョコなんて作っている。こんな甘苦しいの、あげるような相手もいないのに。なんてこと。湯煎で溶かしてしまった自分が忌々しい。こうなったら固めるしかないじゃないか。やってから気づいた。もう遅い。
一通り終わって私はコタツの中でひっくりかえる。一人暮らしのアパートは深深としている。テレビをつけよう。ぽち。映る映像は、箱の中でやたら楽しげ。おいおい、こっちはやたらと暗げ。なんて対照的。ますます暗くなるじゃないか。ああ、こういうとき、実家にいればよかったと心底思う。喧嘩ばかりで仲がいいとはいえない両親。受験勉強でがりがりに痩せた、絶対に女からキモ系と呼ばれるだろう弟。――思い浮かべると、あんまりよい家庭ではなかった。前言撤回。私はごろんと寝返りを打とうとして――狭いコタツで腰を打った。寝返りが打てるわけないのだ、この低いコタツで。
あぁ――私の一生はこうして終わるのかもしれない……。
薄れていく意識の中で、私は、インターフォンの音を聞いていた……。
ん。インター、フォン?
飛び起きる。何だろう。宅配便だろうか、と時計を見る。十一時。ありえん。こんな時間に来たら、むしろ宅配便会社訴えてやる。私はのそのそ玄関に向かった。髪の毛が絡まっている。手櫛で梳かして。眼鏡も、掛けなおして。私は、覗き穴から外を見た。……暗い? 何で? 何で見えないの? ひょっとして、廊下の電気が消えているのだろうか。管理人さんに言わねば……面倒くさいな、と思いながら、私はドアを開けた。その瞬間、
「突撃、隣の晩御飯!!」
奇声。いや、超高音。
同じ大学の友人、あすかがぐーを突き出すポーズで立っていた。とっても笑顔で。
その隣に、やっぱり友人の谷村まで立っていた。彼は控えめに「突撃、隣の晩御飯」とハモっていた。何してんだ、お前。いや、お前ら。私は自分でもわかるほどうろんな目つきで二人を見た。しかし彼らは呆然としていた私を押しのけ、勝手に部屋の中に入っていく。二人がコタツに入ってから、私ははっとして玄関を閉めた。
「な、な、あんたら、何しに来たんだ、こんな時間に!」
あすかはコタツに顔をつけて、テレビのリモコンをいじりながら言った。
「大学ずっといたらお腹空いたー。いづちゃん、ご飯ー」
「私はあんたにやるようなご飯持ってない! ていうか、生協行け、生協!」
「生協に行くお金がないんだ」
付け足すのは谷村だった。彼は、どん、とコタツの上に瓶を置いた。
「というわけで、伊津さま、これを土産に持ってまいりました」
「そんな馬鹿丁寧な言葉で言われても騙されるか! そんなワイン買う金あるんなら、生協行けただろ、普通に!」
あすかと谷村は二人してコタツに顔を載せて。二人してハモって言う。
『ご飯下さい』
「練習するなよ、そんなこと!」
叫びすぎて疲れてきた。二人は顔を揺らして私を見る。くそ。くそぅ。忌々しい。忌々しいが、私はつい冷凍庫に保存してあったビビンバチャーハンを皿にぶっかけてレンジにかけてしまった。あぁ、私も大概優しい人間……。ちーん、とできあがったものを二人の前に持っていくと、あすかは大層綻んだ表情を見せてくれた。
「うわぁい、いづちゃん、大好きー!」
「あんたの大好きって、安いよね」
谷村はというと、なんと図々しい、何も言わずにビビンバチャーハンを淡々と口に運んでいる。テレビを見ながら。あぁ……忌々しい。
私はコタツの中に入る。すると谷村がワインを私に突き出してきた。
「あ? 何?」
「オープナーは?」
「ないよ、そんな格好いいもん」
谷村はあからさまに顔をしかめた。
「使えないな……」
額の、血管が、切れたかと、思いました。まる。
しかし、私は、大概優しい女の子。にっこり笑い返して、とりあえず、谷村にチョップをかましてみた。谷村は少しだけ笑って無印のトートバッグの中から何かを私に突き出した。……オープナーだった。
「伊津ちゃんちに、そんな格好いいもんないと思って、予め買っておきました」
――忌々しい。私は舌打ちをして、コルクにオープナーを突き刺した。回す。しかし、コルクがほじれていくだけだった。くそ。格好いいもんと言った私だもの、ワインを開けたことなんてあるわけないんだ。すると隣から手が伸びてくる。谷村は何も言わずに私から瓶を奪い、無言でするっとコルクを抜いた。そして開いた瓶をまた私につき返す。……忌々しい。また、私は、舌打ちするしかなかった。そんなときに、こいつの指、細くて長くて綺麗だなんて思った私は、ひどくばかげている。
「和己くん、上手ー。ワイン、飲もー!」
「というわけで、グラス」
こいつらは人を使うことに長けているのだろうか。もう、なんだか、抵抗するのも疲れたので、私は黙って戸棚へ向かう。しかし、ワインを日常に飲んでいるわけがない私の部屋にグラスなんてあるわけがなかった。仕方ないので、マグカップを持っていく。三つもなかったので、あと一つ、湯のみ。するとまた谷村が絶句するのだった。
「こんなもので、ワイン……」
「だったらこんな家に来るなよ」
しかし確かに、どこでもいっしょのトロのついたマグカップに浸したワインは、どうも雰囲気にそぐわない。そもそも、何で、この三人が、バレンタインにビビンバチャーハンを食べているのか。そもそも、そこからそぐわない。私にもワインは似合わないし、そもそもチョコレートを作る自分というのもおかしい。元々そぐわないものばかりだったのだ。
マグカップワインを飲んでみた。酒を飲んでいるのに、ちっともそんな気分にはなれなかった。多分、取っ手に乗っているトロのせいだ。この猫め。
「あんたら、今日、何でうちに来たの。用事はないのか、用事は」
「ないよ」
あすかがもぐもぐしながら言う。
「だって、春人、帰れないって言うんだもん!」
出た。春人。名前しか知らないが、この女の彼氏である。名前だけ、異常に私の中で有名だ。この女が、一度も代名詞で人を呼ばないせいでもあるのだろうけど。
その名前を出した途端、あすかはマグカップに注がれたワインをぐいっと飲んだ。マグカップをコタツに置く時には、中身がからっぽになっていた。
「ていうか、あすか、あんた、そんなバレンタインにチョコを渡すような女だったか……?」
ビビンバチャーハンの残骸をいじりながらあすかは言う。
「渡さん。食う」
「あぁ、安心した。私、今、すっごく安心したよ……?」
「でも、帰ってくる言ってたもん。言ってたのにー!」
あすかは自らワインをマグカップの中に注いだ。やばい、と思った瞬間、谷村から手が伸びる。
「あすかちゃん、飲みすぎはだめだよ」
「やだやだ飲むー!」
「はぁ……私、春人が見てみたい。この子がこんなにラブる春人とやらを……」
「ラブってないもん!」
お前。一人で自分の食べるチョコ作っていた私に言う台詞か。と思ったが言うのはやめた。自分の傷えぐる、よくない。
「そーじゃないもん。だって、もー、一ヵ月半遊んでないもん……。やだー。あたし、春人と遊びたいー。春人と遊ぶー春人で遊ぶー」
「なんてエロい台詞なのだろう……春人で遊ぶ……」
なんて言うのは私じゃない、谷村だ。お願い、間違えないで、頼むから。湯飲みでちびちびワインを味わっている谷村に聞いてみた。
「あんた、チョコ、もらわなかったの? ていうか、彼女は?」
「別れた」
「は!? またぁ!?」
あまりにあっさりと谷村は言う。私の声だけが響いてしまった。ワインを瓶一気しかけ、谷村に制止されていたあすかが補足する。
「浮気。また」
「またぁ?」
「またまた言わない。それじゃまるで俺が浮気したみたいじゃない」
「まるでじゃなくて浮気じゃん。かずみん、いつも浮気じゃん」
「かずみん言うな」
「和己くん、いつも浮気!」
「だから、それは語弊があるだろう?」
谷村はため息をついて頭を抱えた。いや、ワイン瓶も抱えているけど。
「浮気という言葉の反対は何だと思う?」
谷村は薄く笑って身を乗り出した。思わず、私とあすかも身を乗り出す。
「本……気?」
「そう、当たり、あすかちゃん。いわば、あすかちゃんと春人の関係、それは本気ね?」
「本気なん?」
「聞くなよ。俺は、二人の関係は本気だと思ってるんだから。そう、浮気というのは、本気という対象がないと成り得ない状態だと俺は思っている。もしも、春人がそうだね、他の女と寝たとしたら、それは浮気だ。けれど、俺は違う。だから、俺のしていることは、浮気ではないんだ」
真面目に言う谷村を私はジト目で睨んだ。
「おい、たにー……、それは、あんた、いつも浮気で付き合っているってことだーね……?」
「たにー言うな」
「つまり、和己くんは、えーとえーと……、じゃ、何で付き合ってるの? えーとえーと……あたし、春人と一緒にいると、楽しいよ? 和己くん、違うの?」
谷村はあすかの鼻先に指をつけて、あすかに限りなく接近した。
「付き合う理由は、セフレ捜すより、ラク。俺的に」
あすかと谷村をべりっと剥がしながら私はうめいた。
「谷村、あんた、鬼だ。鬼畜。女の敵」
「いや、俺、君らに友好的じゃない。何を言う」
両手を上げて谷村は舌を出した。この、確信犯。これはこいつの習性なのだ。大学に入って友人になって、何度この男が鬼畜に女を弄ぶ姿を見たのかもう解らない。春人春人言っているあすかとは正反対である。それでも、友人としてはいい奴なのである。ノート見せてくれるし。困ったものだ。
「和己くん、今まで、何人と付き合ってるの?」
「おぉ、あすか、いいことを聞くじゃない」
「そうだな……」
谷村は指を折って数え始めた。一、二、三……。それが、十回ぐらいまでは、私も一緒に心の中で数えていた。しかし、どれだけ、指を折るのか。もう、数えるのが面倒くさい。次第に谷村も頭を落としていく。
「……悪い、一回寝ただけの女も入れた。数えなおしか……あぁ、あんまり、覚えがないな……あれとは寝たっけ……」
「最低。鬼畜。女の敵」
思わずうめく。しかし、谷村は首を振った。
「来るもの拒まずがモットーなんだ。別に、不細工でも、俺はがんばるよ」
「何をだ!」
「そう、つまり、伊津ちゃん、君でもがんばる」
「何を密かに失礼なこと言ってんだ!?」
「ちゅーでもしとく?」
「しない!」
私はコタツ布団の中に体をもぞっと入れた。すると、ててってってれって! と、着メロが鳴った。このメロディーは……! がばりと起き上がる。もう覚えてしまった。
「春人だー!」
予想通り。この女の春人専用着メロなのである。ぱっとあすかは電話を取った。
「春人ー!」
声が、ますます高くなった。この場になんだかピンクい空気が流れ始めた。いや、ピンクい空気表現はよくない、それでもなんといえばいいのだろう、このラブ空間……。私と谷村はしらけた目であすかを見るのだった。
あすかは電話を持って勝手にベランダに出て行った。谷村はワインをさらに湯飲みに注いで飲み干した。しばらく二人でテレビを見る。何で、こいつと、二人で、テレビ。自分でもよく解らない。ついでに、時計を見たらもう十一時半を過ぎている。この人たちは、一体いつ帰るつもりなのだろう……。
「飲み物、ない?」
いつの間にか一人でワインを空けてしまった谷村は湯飲みをぶらぶら振った。冷蔵庫見れば、と言ったので、谷村は冷蔵庫を開けに行く。それでぼんやりとテレビを眺めていたのだが。冷蔵庫の開く音で気づいた。ばっと冷蔵庫を見る。しかし、時は遅い。谷村はにやりと笑ってタッパーを手に持っていた。
「何、これ?」
解っているくせに。こいつ、解っているくせに。私は顎を引いて谷村を睨んだ。谷村はトマトジュースと一緒にタッパーを持ってきた。コタツの上で開ける。……谷村は、にんまりと、笑う。
「うまいじゃない」
「……自炊シテマスカラ」
生チョコだ。うまい具合に固まってるじゃないか。感心した。谷村はワインの入っていた湯飲みにトマトジュースを注いだ。そして、私のマグカップにも。
あすかがベランダから戻ってくる。ここに来た時よりもずっといい表情で帰ってくる。あすかはぴょんっと飛び跳ねてコタツの中に入った。ベランダの空気が、コタツの中に舞い込んでくる。冷たい。でも、あすかの表情はひどく暖かいのだった。この矛盾。
「春人、何だって?」
谷村が生チョコに手を伸ばしながら尋ねる。あ、口の中に。入った。
「春人、今日、もうレポート出したから。来るって。明日!」
「明日? 明日の朝? 来るの? あんたの彼氏。うわ、会いたい。見たいー」
「じゃ、行く? 俺の車で名駅まで行けばいいじゃん」
「来るの? まー、名駅まで送ってくれるんならいーけど」
「え、それって、もしや、あんたら、泊まること前提?」
「ねえねえ、和己くん、一人で何を食べてるの?」
「チョコ。食べる? 甘いよ?」
「食べるー!」
私の質問、無視か。
二人は、はい、あーんなんてチョコの食べあいっこしている。待て。何故、私の作ったチョコで。
「おいしー! いづちゃん、すっごい! さすが菓子屋!」
「いや、売るだけだし」
「でも甘いよね」
言いながら谷村はチョコに手を伸ばす。
「文句あるなら食べるなよ」
「いや、俺、甘いの、苦手なの」
「じゃ、何で食べるの」
「何でって。伊津ちゃんがせっかく作ったのだから、俺が食べないでどうするの?」
私はまじまじと谷村を見た。しかし、谷村は穏やかに笑っているだけだった。それだけだ。それだけなのに。
――私、何を考えているのだ。
「私、それ、まだ食べてないんだけど。私用に作ったんだから、あんたら、食いすぎ」
「まだ食べてなかったの? じゃ、ハイ」
谷村は、自分の食べかけのチョコを私に差し出した。……はい、あーん、ってか? しかも、食べ差し?
放っておくのもおかしいので、仕方なく口を開けた。唇を閉じる時に、谷村の指が触れた。食べかけのチョコは、口の中の体積に比べるとずっと小さくて頼りない。
確かに、甘い。甘すぎた。
あすかはもぐもぐ食べている。こんな時間にチョコなんて、という考えは彼女にはないらしい。あっという間にタッパーの中のチョコがなくなっていく。
「来年は、誰か用にきちんと渡せるといいね」
「来年は、あんた、きちんとした人からもらえるといいね」
くやし紛れに言ってみた。谷村は首を傾げた。
「チョコ嫌いだから、いらない」
「じゃあ、何で食べるの」
「伊津ちゃんの、チョコだから」
絶句する。何を言っているんだ、この男は。全く。こういうことを、誰にでも言うのだ。これが、この男の手管なのだ。私にまで披露しなくてもいいのに。
私がお風呂に入っている間に、二人は酒をさらに用意していた。お金がないんじゃなかったのか。忌々しい。ついでに普通に素顔曝け出してしまえるような仲であることが忌々しい。
三人で酒盛りをしながら夜を明かした。
目が覚めたら、コタツの中だった。
しかしそれを認識する前に、私は目の前に谷村がいることにびっくりした。思わず叫んで飛び起きる。うあ、頭痛がする。あぁ。風邪を引いたかもしれない。谷村を見下ろす。うあ。こいつ、男のくせに、私より睫毛が長い……。
見回す。あすかの姿がない。どうせまた春人から電話でもかかってきたのだろう。もうすぐ着くよ? とかか? 声を聞いたことなんて一度もないから知らないけど。
ぎゅ、と腕を掴まれて、私は思わずびくっと震えた。谷村が、私をぼんやり見上げていた。そして、彼はゆっくり周りを見回した。そして安堵のため息をつく。
「あぁ……そうか、昨日、伊津ちゃんちに突撃隣の晩御飯したんだっけ……」
「何その企画」
思わず笑う。しかし、すぐに私の笑みは消えた。
「俺、まさか、伊津ちゃんにまで手を出したかと思った……」
谷村は呟いてまたむにゃむにゃと眠ってしまった。
私はぼんやりと谷村を見下ろした。
何だ、それ。
顔が熱くなる。怒りで。
多分、怒りで。
谷村は、私の腕を、放してくれなかった。眠っているから。私も、振りほどけなかった。
ばたばたと外から足音がした。ばんっと勢いよく玄関が開く。
「和己くーんっ! 大変!」
騒がしくやってくるあすかは、大変といいながら笑っている。谷村も、さすがに目を細く開けた。
「何……あすかちゃん……」
「駐禁取られたー!」
瞬間、谷村ががばっと起き上がる。
「マジで!?」
谷村は髪の毛が跳ねたままで飛び出していった。「マジー!」とあすかはお腹を抱えて笑っている。
私は。谷村の手があった、腕が、なんだか熱くて。
動けずにいた。
「いづちゃん? おはよー?」
あすかが目の前で手を振る。だけど、視界はぼやけている。ああ、と気づいた。眼鏡、かけていなかった。
でも、谷村の顔だけは。なぜか、解った。睫毛まで。詳細に。
「……あぁ、くそ」
自分の考えにうめく。
こんな気持ち、あるはずがないのに。忌々しい。
駐禁取られたスカイラインで春人を迎えにいった。春人は思った以上に背の高い男だったが、それ以外は特に予想と違うわけではなく。ともかくあすかとお似合いだった。あすかがとても幸せそうに笑っているのが印象的だった。
スカイラインで下宿まで送ってもらい、部屋に戻る。一人の部屋は味気ない。昨日はあんなに騒がしかったのに。ワインの空瓶、チューハイの缶、つまみ、お菓子、全て中途半端な状態でコタツの周りに散乱している。これ、私に全部片付けろと。ため息をついた。まぁ、駐禁騒動で忙しかったのだから、しかたないのかもしれないけれども。
空き缶と残りの入っている缶を仕分けしながら、私はチョコが一つだけ余ったタッパーを見た。……ほとんど食べたのはあすかだ。あの女、ここぞとばかりに食いおって。
でも、谷村も、少し、食べた。甘いの、苦手なのに。そんなことぐらいは、私だって知っていたのに。
コタツの上を掃除して。床も汚れているので掃除機をかける。すると、谷村が寝転がっていたあたりに、指輪を見つけた。拾い上げる。
あぁ。これ、谷村が前の彼女とお揃いで買ったというペアリングだ。
……もういらないだろう。別れたんだし。しかし、何で、まだ持っていたんだ? 持ち歩いていたのか?
考えがぐるぐる回る。よく解らない。
とりあえず、私は指輪を嵌めてみた。
谷村の指はやっぱり細くて、私の中指にぴったりだった。
一言ございましたら。
