限定鼓動

2006年03月21日(火) no titled.

今日は彼岸で月命日でした。

お膳の準備は祖母がやってくれたので
私は盛り付けと墓参り後のそれのお片づけをしました。
こんなことをやっていても、
祖母も私も、母がいないことに
未だ、理解がいきません。
頭ではわかってる。
母が倒れてから、もう1度眼を覚ますまで
そして、それがもう1度伏せられ呼吸が止まるまで
私たちはずっと母の傍に寄り添っていた。
瞬間瞬間を断片的に、それでもきっと一生消えないまま
ずっと覚えている。
母がこの世界からいなくなった瞬間を
私たちは嫌になる程、しっかりと覚えてる。
それでも未だ、理解も納得もできない。
大事な人を失えば、きっと皆、同じようなんでしょう。
ただそれに到るまで
母が倒れるまで気づけなかったことに
未だ疑問も後悔も薄れることはなく。
それがあるから余計に
喪った痛みも、現実味の無いこの現実にも
耐えられなくなる日が多々あるのでしょう。

朝、コーヒーを飲む習慣は、母がいなくなってから
いつの間にかついたもので
あまり好きではなかったブラックを
今では、母が好んだと同じように好んでそれを選ぶ。
いつか、コーヒーでも飲みながら
馬鹿みたいに明るい母の相手をしながら
愚痴でも聴きながら
いつか、そんな日が、来ると思ってた。
それはあまりに平凡すぎて、自然に訪れる日だと思っていたのに。

―20歳になったから、母さんの話も聴いてね。

やっと、私を小さな娘から女として見てくれて
オトナの事情ってのを、話せるようになったからと
そう云った母は、あの時既に、小さくか細くなって見えた。
何で、あの時に、それを異常だと捉えなかったのか。
痩せた、と喜んで云う母を前に
私は何も云えなかった。
母がいなくなることなど、予想すらできなかったから。


―母さんがおらんでも、ちゃんと学校行く?


何度も何度も、頭の中で響く。
貴女が倒れる前日、私との別れ際
何故か急に呟いた言葉が
未だ、私の中を占める。
何度もサイン済みの退学届けを見つめながら
それでも通い続けたのは、
貴女の言葉があったからだ。
意地にもなっていた。本音を云うには気が引けたから
安定した就職先が欲しいだけだと云ってきた。
だけど貴女が死んでから、ともすれば崩れかける精神状態を支えてきたのは
貴女の最期の問いかけに答えたからだ。
ちゃんと、行くよ、と。

崩壊しそうなこの世界で
貴女に話した夢を叶える。
貴女が私にしてくれたことを
一つ思い出すたびに、未だ貴女の帰りを待ってる。
馬鹿みたいだ。
貴女が好きそうなお菓子の新商品を見つけると
相変わらず、買って帰ってしまう。
喜んで食べてくれる貴女は、もう何度家に帰っても迎えてはくれないのに。

貴女との約束を、尽く破ってきた。
それすらを貴女の所為にしながら、平然と約束を放棄してきた。
けれど貴女が最期に云ったから。

今の私をみて、貴女は何て云うだろう。





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陽 [MAIL]