ぶらんこ
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大きな洋館の前に立っている。 わたしは友人と一緒に、海へ続く道を歩いていた。 この洋館は、以前もあったような、なかったような・・・なんとも不思議な気持ちで見上げている。
高い鉄門はとても重々しい感じがしたが、よぉく見ると葉の模様が施されている。ところどころに小鳥がとまっているのが、なんとなく愛らしい。 ふと、門の右側に掲げられた飾り看板のようなものに目がいった。 楕円形のそれは、鉄門と同じ素材で作られている。そこには、大きな一本の樹が美しく彫られていた。 惹きつけられるように見入っていると、ほどなく、中央に「楡」という文字が浮かび上がってきた。 楡(にれ)? わたしは、この立派な樹木が楡の木なのかもしれないな、と思う。でも、もしかしたらこの洋館に「楡」という人が住んでいるのかもしれない。
「ねぇ。楡の木って、どんなだったか覚えてる?」 友人に聞いてみた。と、同時に、その看板(表札?)の中がぐぅん、と動いたような気がした。
楡の樹に風が吹き、葉がざわめき、膨らみ。。。。
それは、全体としては楡の木なのだけれど、部分的に見ると違っていた。 まず、右上半分に建物。その手前には鉄門。 建物の左手には森が拡がっている。 そしてその森を抜けると岩場があり、そこにはアスレチックのような遊具があった。 その遊具は、複雑ながらも岩場から坂のようになって空き地へと繋がっている。 空き地には大きな楡の木が立っている。 そこを抜けると、鉄門。 その門をふたりの人間が見上げている。
わたしたち???
よく見ると、アスレチックでは小さな者たち(小人?)がせっせと動いていた。 彼らは坂を下りて行くうようにも登っていくようにも見える。まるで安野光男の描く世界。見れば見るほど、わからなくなる。からくりの坂。 右上にある建物は、目の前の洋館。今になって、洋館の向こう側に実際、森が拡がっているのが見える。 きっと、中へ入ると池もあるに違いない。 その池を取り囲むように家があり、森があり、坂があり、空き地があり、楡の木が立っているのだ。
絵のなかの池に目を向けると、いきなり竜があらわれた。 竜は、ゆるぅりと頭を出し、音もなく(聞こえないのは当然だけれど)すすっと左へ進み、全貌は見せずにまた水の中へと消えていった。 「ちょっ、ちょっと今の、見た?」 思わず大声で友人に聞くが、彼は「ん。。。」と言っただけだった。 わたしはもう一度、じっと池を見つめてみる。 するとそこに、「楡」という字が浮かんできた。美しい大きな楡の木と。
(もう一度。。。) わたしは頭を振り、目を閉じ、心に念じてから、また目を開ける。
鉄門は閉まっている。 洋館の窓は開けられている。 森がざわめく。 からくりの坂では小人がせっせと動いている。 池には悠然とした竜の姿。 楡の木。
やっぱりここは楡の世界だ。心に念じていれば、きっと入れるはず。
「じゃ。。。行くしかないみたいだね。たぶん。。。」 友人に言われて、わたしは鉄の門に手をかける。
海風が吹いて楡の木が膨らみ、わたしたちを迎え入れてくれる。
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