ぶらんこ
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2005年06月12日(日) 過去への電話

昨日の早朝。電話の音で目覚めた。
寝ぼけていたので子機がどこにあるかわからず、慌てて親機まで駆けてったのだが間に合わなかった。
誰からだろうーーーー。気になりながらベッドへ戻った。
と、しばらくするとまた電話が鳴った。うぎゃー。また駆けつけたが、遅かった。うーっ。

なんだか気になるので、もう起きることにした。せっかくのお休みだから、もっとゆっくり眠っていたかったのだけれど。
とりあえず珈琲を淹れ、なんもせず長い間ぼーっとしていた。
すると、だいぶん経って(もう電話のことなど忘れていたときに)また電話が鳴った。

ソファから飛び起きて電話をとると、受話器の向こうから、少しくぐもった声で誰かが話しかけてきた。
「もしもし?アイちゃんね?」
「あっ いえ、違いますが。」
「あれ?違う?そりゃどーも。。。。」
「あの、ちょっと待ってください。もしもし?もしもし?」


思い出した。
この男の人、知ってる。
いや実際知ってるわけではないが、これまでに何度も何度もかけてきた人だ。
相手はアイちゃんだったりケイコさんだったりする。
何十回もかかってきてるので覚えてしまった。他人とは思えないくらいだ。

しばらくしてまた電話が鳴った。
おんなじおじさんからだった。
「あれ、違う?そりゃ、どーも。。。。」
「あのっ もしかして○○さん宅におかけですか?」
わたしが尋ねると、彼は息を吹き返したように元気な声になった。「そうです!いるんですか?」
いえ、違うんです。わたしは○○さんを知りません。ただ、この電話番号は、もうその人たちは使ってなくて、わたしが使ってるんです。
でも、おじさんはなかなか納得しない。電話帳に載ってるんだけど、と言う。
でも、うちは電話帳に載せていない。きっと古いものなのだろう。
この電話番号を使うようになって、一年近くなります。○○さんへの電話はよくかかってくるんです。でも、もうこの番号じゃないんです。
なんとか説明するが、彼は腑に落ちない様子だった。「そうですか。んーー、そうですか。」そう言って、電話を切った。

朝から知らない人と(もう知り合いのようにさえ感じるのだけれど)話をして、なんだか不思議な気分。
でも実を言うと、このおじさんには、以前も同じように説明している。話していて思い出したのだ。声と、イントネーションとで。
彼はわたしのことを覚えていないのだろうか。


なんだかなぁ。。。。
間違い電話が迷惑だとか、早朝の電話だったから腹が立った、とかではなくって。
なんとなく切なくなってしまった。
なんともやりきれないような。

もうその○○さんはいないのだ。
少なくとも、そのおじさんの手の届く世界には存在しない。
何かの理由があって、姿を消したのだろう。よんどころのない事情で。

きっとそのおじさんも知ってるのだろうな・・・とも思う。いや、知らないのかな?どうしてもその事実を受け入れきれないのかな?
どちらにしても、ときにふと思い出すのだろう。
電話したら出るかもしれない、と思うのだろう。

そんなことを考えていたら、おじさんがまるで過去に電話しているような気がして、なんとも言えない気持ちになった。
別に、過去を断ち切れ、と言いたいわけではなく。
なぜって、彼にとっては過去でもなんでもないわけだし、そうであったとしても執着するしないは彼の自由だし。


もしも過去に電話をかけたらどうなるんだろうなぁ。。。。
いつか、パッと繋がったりすることもあるかもしれないなぁ。。。。
もしも繋がるとしたら、良い話が出来るといいなぁ。。。。

なんて。


雨の音が近く、遠く、強く、弱く聴こえていた。
気が付くと窓から雨が打ち込んでいて床まで濡れており、慌てて窓を閉めた。
おじさんのところも○○さんのところにも、おなじ雨が降っているのかもしれないなぁ、と、思いつつ。。。。




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