ぶらんこ
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2006年08月26日(土) 意思伝達装置

すごく大袈裟なネーミングに聞こえるかもしれない。
でも考えてみるとわたしたちは生きていくなかで常に「選択」し「行う」ということをやっている。
それは誰の意思でもない。自分の意思だ。誰かに相談することもなく、ごくごく普通に選択・決定している。
たとえば朝起きたら頭のなかでトイレにまず行こうか先に珈琲を淹れるかなんてことを考える。
わたしなんかはそこに「ぷーを外へ連れて行く」が優先される。

ではなんらかの理由でその行動を起こせない場合は?
―きっとぷーちゃんのお世話はこころに頼むだろう。ぷーはおうちの中では絶対におしっこしない。我慢させていたら病気になってしまう。
では頼みたいのにもしも声が出せなかったら?
―紙に書いて頼むか?
じゃぁペンを持つことが出来なかったら?どうやって伝えたら良いのだ?


人は自分の意思を誰かに伝えたいという欲求がある。ちいさなことから難しいこと、なんでも。
もしも自分の意思を伝える術がないのだとしたら、どんなに苦痛だろうか。想像してみて欲しい、先の日常のちいさな出来事でいいから。


ALS(筋萎縮性側索硬化症)など神経難病の患者さんや障害者の方々とのコミュニケーションをはかるため、意思伝達装置というものが開発された。
『伝の心(でんのしん)』というソフトだ。
その人の「意思」は、彼の動かせる部位(1本の指先だったり頬の一部だったり口唇だったり舌先だったりする)を利用し、モニター上に現れる。
それは声に合成もされる。抑揚のないいわゆるコンピューター調の音声ではあるけれど、その声は紛れもない彼の意思を代弁している。


研修で、『伝の心』を開発された技術者(小澤邦昭氏)と話しをすることが出来た。
とてもとても穏やかな人。彼のどこにあれだけの情熱が備わっていたのだろう、と不思議に思う。
長い年月をかけ、修正に修正を経て。(経済的な)利益の伴わない研究を続けられたのも、彼の「人となり」の力だと思う。
実際、『伝の心』はビジネスにはならない装置だ。
大手の企業(日立)がそれをバックアップしたという事実が嬉しい。思いっきり拍手。
それこそが大企業の役割だと思う。認知度うんぬん関係なく、日立というグループの価値がぐっと上がった。→日立・情報機器アクセシビリティ


小澤氏は『伝の心』開発の後、更に重症な患者(身体のどこも動かすことの出来ないALS患者)さんのために『心語り』という装置も開発された。
『心語り』は「はい」「いいえ」を脳血流量によって認識するもの。
患者さんにとって「はい」「いいえ」このふたつの簡単な気持ちを伝えること(家族にとってはそれを知ること)が、どれだけの喜びになったか。


「意思を伝える」「その人の意思を知る」。
この2点について、深く考えさせられた、とっても有意義な研修だったと思う。


  ・・・・・・・・・

『伝の心』は日本語のソフトだ。試用版はこちら。→『伝の心』
小澤氏に英語のソフトはないのか質問してみると、アメリカではWords+社からEZ Keysというソフトが出ているらしい。→Words+ EZ Keys
言語が違うと勝手も違う。確かに『伝の心』のシステムをただ英語化しただけでは、時間がかかってしまい、かえって不便だろう。

・・・世界中の技術者に敬意を表したい。




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