林心平の自宅出産日記

2004年11月22日(月) ウーマンアローン

 仕事から帰ると、妻が「昨日読んだ『ウーマンアローン』とても感動したんだよ」と言って、その一節を読んでくれました。

「 銃、GPS、携帯衛星電話は、ユーコン川の川旅の三種の神器なのだという。
 人によっては、いつごろ雨が降るのかを予想できる気圧計を持って行く人もいる。
 私は、その三種の神器の一つさえも持っていなかった。そのことで友人を『無謀だ』と、不安にさせていた。
 しかし、だからといって、私の旅は無謀でも無茶でもない。
 私は私なりに、堅実な旅をしていた。
 私は、銃の代わりにギターを買った。
 衛星電話の代わりに、カヌーが遭難しても一ヶ月はサバイバルできるほどの水と保存食を積み込んだ。
 そして、GPSの代わりに地形図と小さなコンパスを買った。
(中略)
 私の旅は、全てのことに100%を超えていた。120%いや、それ以上でなければ、荒野の中では命とりになる。
 考えること、決断の迅速さ、勇気、多くのことに、100%以上のものが要求される。
(中略)
 緊張の糸がピンと張りすぎて、気疲れすることもあったが、そのうち、緊張とリラックスのバランスというものも理解できるようになった。
 ハイテクノロジー機器は、確かにすばらしい。
 しかし、テクノロジーは、そんなに信頼してよいものなのだろうか?
 どんなにその機器を上手に使うことができるとしても、もしも、それが壊れた時に、自分の力と知恵と感覚を使うことができなければ、それは何よりも危険なことだ。私は、テクノロジーに頼りすぎて、その知恵や感覚を失ってしまうのが最も怖かった。」
『ウーマンアローン』(廣川まさき/集英社 1575円)2004年より

 ここまで読んで、妻は言った。
「私の自宅出産も、『ウーマンアローン』だって思ったの。私、いつも、緊張してる。このまえ、夜中にかゆくて、よーさんを起こしたとき、よーさん寝ぼけてたでしょう。そのこと、怒ったよね。それから、『夫には産めないのだし、たいしたことはできない』だなんて掲示板に書いてたこと、無責任だって言ったけど、やっぱり産むのは私だって思ったの。今日は、顔が粉ふきいもみたいになったんだよ。だから椿オイルを塗ったんだけど、かゆいのだってよーさんじゃなくて私だし。もし、お医者さんにかかっていても、そのお医者さんが休みの日に産まれることになったらどうなる? 結局、知らない他のお医者さんになってしまうでしょう。『自分の力と知恵と感覚を使うことができなければ、それは何よりも危険なことだ』っていうのは、そのまま出産にあてはまるのだと思う。自宅出産は、私の『ウーマンアローン』なんだよ」

 ぼくは、この言葉をきいて、逆に勇気づけられ、妻をますます信頼したのでした。
 それから、夫には産めないけれど、できることもたくさんあるのだと、あらためて思いました。
 『ウーマンアローン』も読みたくなりました。


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