まみいの日記
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その昔 まだ大人しく積極的に友だちの輪に入れなかった私は 本が友だちだった。 小学校の図書室に入り浸っては 少年少女名作全集とか グリム アンデルセン ルパン 江戸川乱歩の少年探偵団とかを読みふけっていたものだ。 子供心にも 乱歩物にはなにかおどろおどろしいものを感じて 母親のそばでしか読めなかったのを覚えている。
そんな私が 読んだとたんに こんなことあるわけ無いと鼻先で笑って放り投げた本が有る。 アンデルセンの「本当のお姫様」という本だ。 身なりの立派な娘とみすぼらしい娘が どちらもお姫様だといって 一夜の宿を頼みにくる。 宿屋の人はどちらが本当のお姫さまなのかを知ろうと 一粒のえんどう豆の上に 7枚もの羽根布団を敷いて その上にそれぞれのお姫様を寝かせた。 身なりの立派な娘はすぐに寝てしまったが みすぼらしい方の娘は一晩中何かが背中に当たって寝られなかったと言い 果たして そのみすぼらしいなりの娘は 翌日迎えに来たお城の使者に守られて 帰って行くというものである。
外見で人を判断してはならないという教訓なのだろうが その頃せんべい布団で毎晩ぐっすり寝ていた私には この話が嘘に思え納得いかなかった。 どうもこれを契機に私は おとぎの国から追放されてしまったようだ。 やさしい物語に姿を変えた「こうあらねばならない」風の教訓めいたものに飽きてしまったのだ。
それから月日はたち 自分の娘たちに本を読んでやるようになって 私はまたおとぎの国に戻ってきた。 幼い子に眠りにつく前のひと時 「外見はどうであれ自分を磨いていれば将来は素敵な人になれるわ」という思いを込めて 「みにくいあひるのこ」を読んでやる。 「夢を持って努力すればかなえられるわ」と「シンデレラ」を手にとる。
そこには以前の私には気づかなかった幼い子を見守る目があった。 千夜一夜物語のように毎晩読んでやることで この子達が素直な女性に育ってくれたら 今の自分の境遇に甘んじる事無く成長していってくれたらと 淡い期待を抱いていた母の私がそこにはいた。
さてそれからまたまた年月は過ぎ転勤地の沖縄から今の千葉へ引っ越してきた時のこと。 新しい学校の先生から「どう? こちらに越してきて 楽しくやっていますか」と印象を尋ねられた長女は「友だちも親切で 良かったです」と答えた。 沖縄の学校が大好きで 泣きの涙でこっちにきてやっと友達がひとりできたばかりなのに・・といぶかしく思った私は 自宅に帰りついてから尋ねてみた。 すると 「先生は私を心配してきいてくれたのに 沖縄の方が良いなんていえない」ときっぱりとした表情でいう。 人のことを思いやることができるなんて 随分成長したなとそのときは思った。
本当のお姫様ってなんだろう? せっかく寝床を用意してくれた宿の人に対して 「寝られなかったわ」と言うより 「ありがとう。ぐっすり寝られたわ」と答えた方が 宿の人は気分が良いに決まっている。 原作の本は生まれながらのものは隠せないと言いたいのだろうが 今の私にとっての本当のお姫様は 何の屈託も無くぐっすり寝て おそらく さわやかな声で「おはよう」といったであろう身なりの立派な娘さんの方だ。
まみい
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