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『やさしい訴え』
2004年10月06日(水)

『やさしい訴え』
小川洋子


『博士の愛した数式』が借りられなかったので借りてきた一冊。なかなかよく出来た恋愛小説。

ハーレクイン・ロマンスみたいなI wish I were...満載の恋愛小説はどうやっても勘弁して欲しいのだが、この作品は夫に裏切られた女性が一人で歩き出すまでの微妙な心理が丁寧に描かれ、読んでいて気持ちがよかった。道具立ても手が込んでいて―仕掛けに気が付くとちょっとうっとうしくもあるが―無駄な飾りがない。

それにしても、バツイチのチェンバロ製作者♂×二股かけていた恋人を女に殺された助手♀×主人公♀ という三角関係を鬱陶しいものにしない筆力はさすがだと思った(こう書くだけでも私には鬱陶しい)。さわやかというのでもないが、まあ、現実はそんなもんだよって。頑張って生きていこうねって。こうやって納得できる恋愛小説は案外少ない。

ここに出てくるのは絶対チェンバロじゃないとだめ。音楽の使い方もお見事。(音楽を使う小説ってどこか作者の衒学趣味が顔を出したり、安っぽい憧れを喚起させるに留まることが多いという印象なんです。目下某大新聞に連載中のはどうなるか?)

生々しい状況なのに、どこか無機的な雰囲気があるところもいいな。

林某さんあたりが書く、読者の世俗的な欲望とタイアップして読ませる小説とは大違いです。

写真アップしようと思ったんですが、文庫本の写真しかなくて残念ながら止めました。だって、単行本の表紙のほうがいいんだもの。 
★★★





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