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『奇想の系譜 又兵衛−国芳』
『奇想の系譜 又兵衛−国芳』 辻惟雄
先日、又兵衛展を見に行った折に買ったちくま学芸文庫の1冊。原著は34年前に書かれたんだそうで・・・文句なしに名著だと思う。38歳でこれを書いたとは、闊達なものである。若書きの気負いこそないが、取り上げる絵師の魅力を世に知らせたいという意欲は随所にほとばしる。
江戸絵画史の中で異端とされがちな岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳の6人を論じたもの。今でこそ、よく話題にされる絵師たちだが、34年前には知る人ぞ知る、というレベルであったに違いない。正直なところ、私が日本の絵に関心を持ち始めたのは、展覧会で目にした若冲や国芳などに、日本の絵の持つ思わぬ側面に目を見開かされたからである。そのこと自体、辻さんのこの本に恩恵をこうむっているのかもしれない。
文庫だから図版が小さいのはやむをえないとしても、絵と文章がうまくかみ合って、論旨にとても説得力がある。文章もうまい。文飾が過剰にならず、さりとて、ぶっきらぼうな報告書風からは程遠い。大体、絵や音楽を文章で説明するのは、想像する以上に難しいことであるから、言葉だけが走ったり、あるいは紋切り型で真意が伝わらなかったり、と厄介なものだが、辻さんの文章は断然読みやすい。・・・ここでまた38歳かあ、とこなれた筆にため息がでる。
日本画はどうも、と思う人にこそ、こういう奇想の画家たちの作品は訴えるものがあると思う。なんとなく頭の中に出来ちゃっているステレオタイプとは大きく異なるはずなので。
★★★
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