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『アンジェラの祈り』
『アンジェラの祈り』 F.マコート 新潮社
貧困のアイルランド人家庭を回想した『アンジェラの灰』の続編。あれにはまったくもって美化することなく貧しい家族の喰うや喰わずの日々を書かれていた。
さて、続編と名のつくものにろくなものはないのが世の常だが、これは例外。566頁もある一人称もの(回顧録)であるにもかかわらず、冗長にならず、しつこくならず、まずその筆致に感心した。自分のこれまでを振り返りながら、母アンジェラをも浮き彫りにしているあたり並じゃない。
19歳でアイルランドからニューヨークに単身渡って、顔を上げることも許されないような床掃除人からスタートする。その後、従軍して欧州へ。除隊後も苦労の末、大学を出て、何とか高校教師の職につき、自分の家庭を持つフランク。その間のエピソードだけでもいろいろあるけれど、ここでいちいち言及することもないだろう。
アイルランド仲間と離れられず、失敗を重ねるのだが、アイリッシュであることに逃げ込みもせず、それから逃げ出しもせず、どこか醒めた目で自分を見ている。同時に、暖かい目で他人を見ている。日々の生活の中で出会う人が実に魅力的に描かれる。まるでクロッキー画のように、あっさりと、でも、ぬくもりのある線で。
アイルランドから徐々に家族を呼び寄せるが、幸せなホームドラマ的展開とはいえない。アイルランドを何度か訪問するが、母なる土地の感傷に襲われることもない。じゃ、何なんだ?といわれそうだが、どんな劇的なことでも、生きてしまえば、案外平凡なことの積み重ねではないだろうか。振り返ってなお興奮したり、大げさに書き立てるのこそ、うそ臭い。『アンジェラの祈り』は後からとってつけたような自己顕示と自己憐憫、自己弁護であふれた回顧録の対極にある。
この作品の魅力は、アイリッシュの個性というか、文化を感じさせること。人が生きるということの重みをずしりと伝えるところ。
★★★
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