書泉シランデの日記

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『鴎外の坂』
2005年01月05日(水)

本日の本題の前に、おたくのメッカ「まんだらけ」というマンガ関係の古書店をwebで見てみてください。まんだらけ うまくとばなかったら検索してね。

コンテンツが日本語・英語のみならず、フランス語、スペイン語、韓国語で書かれているのです。歌舞伎座だろうが、東京国立博物館だろうが、一応日本文化が詰まっているとされるところでも、せいぜいが日本語と英語だけなのに、「まんだらけ」は5ヶ国語。在留資格云々をいう入国管理局にいたっては日本語だけ。

入管はともかく、「まんだらけ」の現状には、江戸のサブカルチャーたる浮世絵が西洋からの評価によって見直されたように、マンガも外から脚光を浴びることで浮世絵の道を歩む可能性があるかもしれません。マンガのグローバル化、恐るべし!


『鴎外の坂』 森まゆみ

森まゆみの書く評伝的なものは、自分の足で歩くなどして知った生活感覚的なものに裏付けられ、対象に注がれる暖かな眼差しとともに、一種独特の読後感がある。考証随筆を書斎にこもらないで街を歩きながら書いたといえばいいだろうか。

この作品は津和野から出てきた数え年11歳の鴎外が向島で暮らした場所からスタートする(プロローグは別)。以降、父が開業した千住、兄弟たちと住んだ千駄木の家、有名な観潮楼@団子坂というように住まいの場所を辿りつつ、鴎外の生涯を語る。小倉の住まいについて多くを語らないのは、谷根千をルーツとする森まゆみの守備範囲から離れるからだろうが、そのあたり、無理をしないのが、かえって好感が持てる。ドイツの住まいについても同様。(こちらについては植木哲『鴎外の恋人エリス』が詳しかったような・・・。それとも前田愛『都市空間の中の文学』だったかな?)

「坂」とタイトルにあるほど、うまいこと「坂」で万事が片付くわけではない。タイトルは若干人寄せを意識しているかも。しかし、この「坂」がとてもうまく効いているのが、第7章「無縁坂の女」と題して、鴎外の妾を扱ったところで、小説『雁』の主人公と彼女を重ねあわせながら、鴎外を浮き彫りにする。『雁』自体よりも鴎外の実生活のほうが面白い。森於兎(クサカンムリつけてね)の言葉がうまく引用される。

有名な嫁姑のことは、子供たちの言葉や峰の日記、しげ宛て鴎外書簡などから復元され、特に目新しいことはないのに、森まゆみの筆にかかると結構上等の随筆として読める。それに引き続き「子供たちの地図」という副題を持つ最終章では、彼女ならではの街歩きの魅力が光る。大正・昭和の町並みが彷彿とされる箇所が幾度も出てくる。鴎外っていい人だったんでしょうね。鴎外の小説や伝記的なことを何も知らなければ、面白さは半減かもしれないが、高校の教科書程度知っていれば十分楽しい本

ついでにいえば、同じ作者が岩波新書で出した『一葉の四季』もお勧め。実際に生きていた人として一葉を感じることができる。
新潮文庫
★★★







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