書泉シランデの日記

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『ささやく恋人、りきむレポーター』
2005年11月16日(水)

岩波のこのシリーズ「もっと知りたい!日本語」は、研究者たちが専門的な成果を一般向けにわかりやすく書下ろしたもので、論文として要求されるデータや検証過程はかなり省かれているが、もとより私はそういうものを必要としないので、すっきりと勉強になってとてもよい。ただし、書き手によって説教調が抜けず、どうにもつまらないのもある。

その中の『ささやく恋人、りきむレポーター』では、会話を自然な会話たらしめているフィラー(「えー」「あのー」の類)や、イントネーション、りきみ、果ては空気のすすりこみまでを扱う。(恋人やレポーターが出てくるのはほんの一瞬なので、タイトルを真に受けると騙された気がする。むしろ「自然な会話の構成諸要素」とでも付けるほうが、内容には即してる。しかし、そんなタイトルでは誰も買うまい。岩波もアカデミズムからポピュリズムへまっしぐら。)

「あのー」と「えー」はどう違うのか。「さあ」というときはどんな気持ちなのか。りきみや空気のすすりこみ(シーッと吸う音)はいったいどういう場面で出るのか。などということについて、自分の体験と照らし合わせながら読める。イントネーションの高い、低いの変化についての考察も面白かった。「はい、はい」を<高・低>でいえば、「待ってました、やりますよ〜」という意気込み、<低・高>でいえば、「わかってますよぉ、うるさいなあ」である。我が家においては、前者は夫に「おやつ」の声をかけたとき、後者は息子に説教するときに生のデータが入手可能である。

空気のすすりこみについては、著者の私怨がちょいと顔を出して、この本に人間味を与えている。どうやら同業者の女性から、そんなことをするのは「関西のオヤジだけ」と断定されたことを根に持っているのである。関西の男性である著者は、そこで、すすりこみは関西オヤジの独占物ではなく、東京の若い女性もやっているぞーと論じるわけである。え、まさか?と思うあなた、ご一読あれ。してるんですよ、ちゃんと。

ともかく、そういう「雑音」が会話において立派なコミュニケーション機能を果たしている事実は大変興味深い。我々はそれをどうやって身につけたのか、そして、どうやって人に教えることができるのか・・・さあ、そこへ来ると研究は緒についたばかり。

日本語ウンチクの好きな人にはお勧めできます。でも、これ一冊読んだからって、ウンチクたれる人はお友だちリストから抹消。



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