…物音一つ立てずに凛と肌に染み込んでくる12月のソラ、
街中はいつもよりも慌しく、だがしかしほんの少し、何かを愉しみにしているような、期待をしているような、そんな季節がやってまいりました。
あ、申し遅れました、
愛の伝道師、
櫻ですコンバンワ。
そろそろ街の中にクリスマスツリーが並び始め、商店街の店先にはポインセチアが笑っています。
…そう、恋の季節の到来ですね。
クリスマス大晦日のカウントダウンバレンタインホワイトデーと12月を皮切りに恋する紳士淑女達の年を跨いだ四大イベントのグランドスラム即ち雨が降った後のタケノコの如くワサワサと量産されて行くカップル達の饗宴が梅雨の到来と共に波にさらわれて消えて逝く砂の城のように崩壊するであろう事など想像するスキマなどこれっぽっちもないくらいドーパミンリッター単位で大量放出される冬のソナタなどにも目をくれない否!ハズレ無しのプレゼント企画に応募したはずが待てども暮らせども連絡もなく音信普通になったみたいな不幸なレディスエンジェントル以外は今回に限りこの先を読まずにENTERを押してくれていい。
優しい悲劇。
まさに『きよしこの夜』がブゥドゥの呪詛に聞こえるようなエピソードをいくつか紹介したい。
airony:1
小学校四年生のクリスマスの事だった。
友達のツチヤくん(仮名)はクリスマスプレゼントにマウンテンバイクを貰い上機嫌だった。
ちなみにこの年、サンタクロース(正体はオヤジ)が櫻の枕元に置いて行ったプレゼントは豊臣秀吉の本だった。
…オレは靴下に“リックドムが欲しい”と書いたハズだ。
全く子供ゴコロを掴んでいない贈り物に毒づきながらもツチヤくんと大阪城までサイクリングに出かけることにした。
走る事を前提に設計されたマウンテンバイクに、汎用型のママチャリでは並んで走る事は険しく、必死にペダルを漕ぐ櫻の前をユウユウと走るツチヤくん。
そして天守閣からまっすぐに100mほど延びる降り坂でその二人の差は一段と開いた。
ひゃっほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
歓声をあげながら坂を降るツチヤくん。
降り坂の終着点に惨劇が待ち受けているとも知らず…
軽快にマウンテンバイクで坂を下りていたはずのツチヤくんが立ち止まって泣いている。
追いついて見てみると、ツチヤくんのズボンから頭まで自動小銃で掃射されたみたいに茶色い点が縦一直線についていた。
どうやら坂之下に設営されていたウンコを、泥除けのないマウンテンバイクが跳ね上げたらしい。
全ての現実を理解したツチヤくんは
「コイツが…コイツが…」
とマウンテンバイクのサドルをバンバン叩きながら呟いた。
優しすぎる喜劇である。
airony:2
友人のモリモト(仮)は尾崎豊が大好きだ。
いつも
“あぃらぁ〜〜〜びゅ〜〜〜”
と、全く捨てるアテのない童貞を背負いながらニキビ面で歌うのだ。
そんなモリモトに彼女が出来た。
スラリとしたモデルばりのプロポーションと、笑うとほっぺたにエクボのできる、可愛らしい彼女だった。
そんな彼女と初めて一緒に過ごすクリスマスに当然、都市開発バリの気合を込めた。
普段はユニクロのスエットにサンダルと言う今時ありえないファッション感覚の彼がコムデギャルソンのジャケットを購入した。
プレゼントに指輪も買った。
ホテルもスイートをリザーブした。
フレンチでディナーコースを取り、その後、夜景が綺麗な一昔前のトレンディードラマ(ダサっ!)に出てきそうなバーで愛を囁き合った。
普段はお酒がダメな彼女が、この日だけは浮かれていたのか、少々飲みすぎなのが気掛かりではあった。
フラフラになった彼女を連れてホテルにチェックインした。
いまいちロレツの回らない彼女が、
「お風呂に入ってくる」
とバスルームに消えた。
ひとりキングサイズのベッドに腰掛け、25年間培ってきた、
「童貞」
の二文字も後数時間後には消える。
決戦を目前に彼は震えた。
拳を握り、(コレは武者震いだ。)と言い聞かせる。
時計の針は刻々と過ぎ、ベットの上にはモリモトひとり。
遅い…
一時間を過ぎたころ、心配になった彼は、3%のエッチな期待もしつつ、バスルームを開けてみた。
足まで伸ばせる、自宅のユニットバスも土下座するような広さのバスタブの中で彼女は、 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 『ゲロまみれ』
になっていびきをかいていた。
次の日、
「どうやった?」
と訊ねると、
「…タコが浮いてたよ。」
と寂しそうに呟いたモリモトの背中が泣いていた。
悲し過ぎる悲劇を君の胸に映したスィー、アイロニ〜…
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