ことばとこたまてばこ
DiaryINDEXpastwill


2004年11月18日(木) バァービィ!

遠くで男がひっそり、そして、ひたりひたり歩いている。
わたしのおにいさん。彼は生まれつき耳が聞こえないの。
近くで四つ葉クローバーを握りしめてる少女が立ちつくしてる。
わたしのいもうと。彼女も生まれつき耳が聞こえないの。

おにいさん、おいで、いらっしゃい、御飯ですよ、お腹すいたでしょう、食べようよ。
ほら、あなたもいらっしゃい、どうしたの、何泣いてるの、わからない、落ち着いて。
なにを話しているの、わたしにも教えて、え、なに、なに、なに、なに、なに。

おばあちゃん!…いもうとなら、向こうにいるよ。呼ぶの。わかった。
おかあさん!…今日もおにいさんと聞こえと言葉の教室なの。うん。わかった。
おとうさん!…今日も仕事なの。今度はいつ帰るの。わからないの。わかった。
おじいちゃん!…泣かなくてもいいよ。ふたりともきっとお耳治るよ。わかった。
バァービィ!今日は!いいお天気ですね。元気ですか。ふふ。ふふ。ふふふ。


人間、ギュウギュウ詰まって、雨をも磨り減らし、音楽をも濁らせて。

明るく彼女は微笑んで、雨水で鉄塊、喉に押し流す。

わたしの名も呼んで、記憶の狭間にわずかでも名前が残っているんならね。

呼んで。ちからいっぱい。
抱いて。ちからいっぱい。
見てよ。ずうっとずとずとずっと。


静かだね。バァービィ。
ふふふ、バァァァァァァァァァァービィ!


陽 |HomePage

My追加