ことばとこたまてばこ
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2004年11月19日(金) 御地蔵尊、微笑んでおわす

にぃっ、と微笑むお前がそこにいる時、おれほとほと困惑してたんだ。

だってお前の後ろに何者かが透けて見えて、でもそれが誰なのか判別つかないからなんだ。お前は黙っておれの後ろに立ち、おれが気づくまでずっとそこに立ちつくす様な奴だったね。お前は間に合うはずの電車やバスに駆け込むのを嫌がって一本遅らせる様な奴だったね。お前は犬を媚び売り畜生だって嫌っていたね。おれが聞こえないっていうことを知ってか知らずか、どちらにせよ山びこが好きだったね。

にぃっ、と微笑むお前がそこにいた時、何を考えてあんな表情を見せたんだろうね。
真っ黒な学ランに、夜の帳も降りた薄暗い周辺を僅かに照らしだす街灯の下で、鮮やかに映えてたお前の白い歯。この時、お前の微笑み初めて見たんよ。

お前は親父さんにぶん殴られた痕を隠そうとそれだけに躍起になっていたこともあったね。お前はアル中の親父さんに虐げられて泣きわめくおっかさんを見たくなくて図工室でいきなり彫刻刀で眼を突こうとしたことがあったね。お前は初めてセックスするとき頭痛がして吐いたんだってね。お前はいつも糞糞糞糞糞糞って呪詛の声を飽くることなく呟いてたね。

にぃっ、と微笑むお前がそこで立っていた時、あの時期は体の髄まで沁みるほどにえらいこと寒かった。
微笑んだお前の頬、丸く赤く染まってて、はは、生きてたね。

はは。


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