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2006年12月03日(日) ひょうきんなけだもの 8 『ジャングルジムのてっぺんから』




路上に落ちている仮面、
口にあたる穴は無く、
まなこの一文字に細い穴、
やわらかいふくらみにうがたれた鼻の穴、
雪に似た白さに満ちている肌の色。

ジャングルジムのてっぺんから、
積年の孤独をかみしめている
でこぼこなジャガイモに似た
つらがまえの翁が仮面を見つける。

仮面をかむった翁。

或る魚屋の廃棄物から烏賊をもらいうけ、
烏賊の内臓、むらさき色の肉の現実を、
ちゅうちゅうと口無き口にあてがい、
しゃぶる真似事を続けながら
あばらでうずきたつ弾痕を薬指でぬるぬるとさすっている。


しなだれかかる空の紺碧、
もたれかかる壁のおうとつ、
かこいこまれる圧迫の空気。


薄い不現実につつまれるがまま、
声も聞けずに、出せずに、
蕎麦屋ののれんだけが、
はたはたはためき。

それから永くの間、翁は仮面をかむりつづけた。
まことなる人の音を感じるまで。


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