ことばとこたまてばこ
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2006年12月02日(土) ひょうきんなけだもの 9 『ドン! ドン! ドン!』



その村は暴力が吹き乱れていた。

髭もまばらな少年、銃をたずさえて
背をまるめ弾丸の雨の中を走る。


横たわる人々はまるで、
何も映さないひび割れた鏡。
かすかなる呼吸も、
一生懸命の鼓動も、
地が包みこんでいった。



爆撃に右手小指をふきとばされた少年。

飛び込んだ森の中、
飛び込んだ木々の隙間、



そこに赤いワンピースの少女を見つけた。



ちっちゃなおんなのこ、

ちっちゃなおんなのこ、

ちっちゃなおんなのこ、

ちっちゃなおんなのこ、


おそろしくおびえながら、
反射的に少年は少女に笑いかけた。


銃をも反射的に向けながら?



なまあたたかく赤く染まる赤いワンピース。

少女は無垢なる荒野へ旅立たされた。



穢土の戦場を駆け抜けてゆく、

あの鬼、

激しく激しく笑っているのか。

激しく激しく泣いているのか。






「いつの日かできるであろう、
ぼくの家庭。
その時、
妻には甚大な愛をそそごう!
子には最高の愛をあたえよう!
親には深遠の愛をささげよう!」

その夢も壊れ、翁となったかつての少年、
冬の冷たく薄汚れた路上にひとり横たわっている。

その呼吸はかすかであり、
それでも一生懸命の鼓動だった。


その指先には血の名残がにじんでいた。

雪が降って。


「まざまざと血が見えるわ」
悠久の少女の声、今夜もまたひびく。

雪が積もって。


黄金色のあふれるひまわり畑は、
今や美しいかつての戦場。

雪が翁をおおって。


いま翁も無垢なる荒野にたどり着こうとしている。


翁はどんなにも辛抱してきた少女の声へついに応えた。



白い雪の中へ赤い両手をうずめ、深く強く凍えるることによって。



どうしようもない眠気がやってきた。




翁は少年となり、
少女の手をとり、
黄金色のひまわり
畑を


駆け抜けていく。




初めての死は空に浮かびながら

ぷうかり ぷうかり




強い白に中和される赤の、
くるおしくやさしいさくら色の死。









ぷうかり ぷうかり ぷかぷかり





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